クリミア:グレート・ゲームは再来するか - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月20日 9時40分
冷戦終結で、第二次大戦後に国際社会が抱えてきた課題は、終わった。その結果、冷戦後には、第一次大戦までに世界が抱えていた諸問題が噴出した。遡れば1990年、イラクのクウェート侵攻は、第一次大戦後に西欧主導で構築された中東の諸国体制に、疑義を投げかける行動だった。第一次大戦前、オスマン帝国が健在だったとき、クウェートがバスラ州の一部だったから、バスラ同様イラクに編入されるべきなのだ、とイラクが主張したからだ。このイラクの論理に、当時のトルコ政府が「だったらイラクまとめてトルコのもののはずじゃないか」と混ぜっ返した、というオチもついた。
その紛争の多くがオスマン帝国の解体という第一次大戦の遺恨に起源を有しているのは、中東諸国に限らない。ユーゴスラビア崩壊後のボスニア、コソヴォもまた、そうだ。また、アフガニスタンのターリバーン政権や、パレスチナを起点として中央アジアなど国際的に展開するイスラーム解放党が目標としたのは、オスマン帝国の消失とともに廃止されたカリフ制の再興である。19世紀の西欧列強の進出過程で、中東、中央アジアに存在したそれまでの国家体制が強引に崩され、それに西欧主導の第一次大戦後システムが被せられたわけだが、そのシステムに居心地が悪いと考える人たちが、イスラーム世界では少なからずいたわけだ。
いっそ時計の針を第一次大戦、あるいは西欧列強の進出以前に戻して、そこから中東の地域システムを作り直そう、とするアラブ・ナショナリズムやイスラーム主義者などの勢力に対しては、欧米諸政府は、「世界中が大混乱になるから、国境の変更は認めない」として、徹底的に抑えつけてきた。クウェートに侵攻したイラクに、欧米先進国が湾岸戦争で対応したのは、典型的な例だ。
さて今、ロシアのクリミア併合に対して欧米は何をしようとしているのか。少なくとも湾岸戦争の時のように「武力でロシアをクリミアから追い出す」勢いは、ない。結局は力のある国の無理が通る、という現実が見えてくる。だとすると、やはり世界はグレート・ゲームの時代が再来するのか。ならば、国境の変更という、欧米世界が蓋をしたはずの「第一次大戦前、西欧列強が壊したシステム再興」への封印もまた、解けるのか。
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