オバマ夫人、中国1週間滞在は「日本外し」の兆候か? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月25日 12時35分
中でも「女性の人権(ウイメンズ・ライト)の保証されないところでは、人間の権利(=人権、ヒューマン・ライト)が保証されているとは言えない。反対に人権の保証されていないところでは、女性の権利も保証されていないのだ」という言葉は、ヒラリーという女性を語る上では欠かせないものです。
国連の会議ということで、こうしたスピーチが行われることを想定していた当時の江沢民政権は、会議場の周囲から「デモ隊」を徹底的に排除していました。その異様ぶりも含めて、そしてそうした「人権のない状態」への告発を、そのど真ん中で行ったことで、ヒラリーはヒラリーとして少なくともアメリカ社会には認知を受けたのでした。
ミシェルという人は、そのヒラリーには「絶対に負ける訳にはいかない」はずです。ですから、みすみす「親中姿勢の演出」という道具に利用されて終わるはずはないのです。そのミシェルですが、早速21日には北京大学で講演して「この国では、インターネットのアクセス制限や、言論統制を止めるべきだ」と演説、正にヒラリーと同様に「その地に乗り込んで」強いメッセージを発信しはじめています。
勿論、北京大学としては「そんな話を聞いても動揺しない」学生だけをスクリーニングして参加させているのかもしれず、また演説の内容は国内では報道されていないのかもしれません。ですが、少なくともアメリカでは報道されているのです。
ヒラリーが北京滞在を契機として、中国に対して複雑なメッセージを出すようになっていったように、ミシェルも、そしておそらくは両親に似てその国の社会の「自由度」に敏感であるだろう娘たちも、「中国というのは完全に開かれた社会ではない」ということを理解していくでしょう。
その点において、今回の「ファーストレディの中国一週間滞在」という事件が「日本外し」の象徴であるような発想が、仮に出るようであれば、それは「被害妄想」であると思います。ミシェルは4月下旬には日本に来ると思いますが、改めて日本社会の開かれた姿を感じてもらえることと思います。
ただ、私には一点だけ懸念があります。中国は様々な意味でまだまだ開かれた社会ではないわけですが、女性の社会進出、女性の権利という点では、日本にはアドバンテージがないのです。それどころか、中国の方が改善している点が多々あるように思います。
4月の来日時にミシェルが同行して来るのであれば、あるいは仮にオバマ大統領単独である場合でも、この問題、つまり日本社会が女性の権利向上という点で遅れを取っていることには、率直な姿勢を見せつつ、改善への努力を真剣に行っているというメッセージを発信する必要があると思います。
現状では、女性の権利改善という問題は「富裕層、エリート層から」という歪んだ運動になっている傾向もあるわけで、そうした傾向への反省的な観点も安倍政権には期待したいと思います。
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