台湾が恐れるアジア版クリミア劇場
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月25日 17時2分
台湾で学生たちが議会を占拠している。いったい何の騒ぎなのか。
彼らの怒りの矛先は、台湾政府が交渉を進めている中国との「サービス貿易協定」。与党が協定に関する議会での審議を一方的に打ち切ったことを「密室政治」と批判し、18日には立法府(国会)を占拠し、23日には行政院(内閣)の建物に突入した。24日には警官隊が排除に乗り出すなど混乱が続いている。
彼らは「真の民主主義」を叫び、馬英九(マー・インチウ)総統に釈明せよと迫っている。台湾紙「中国時報」によれば、これは「台湾議会にとって前代未聞」の出来事だ。
若者たちをつき動かしているのは、台湾が「クリミア化」することへの恐怖だと、専門家らは指摘する。ウクライナのクリミア半島で繰り広げられたドラマが、今度は東アジアで再現されるのではないかと危惧する台湾市民が多いことは確かだ。クリミアがロシアに編入されたように、台湾も中国にのみ込まれてしまうことを彼らは恐れている。
彼らの目には、今回の貿易協定が中国本土によるコントロール強化の足がかりになると映る。台湾の野党・民主進歩党は、協定によって台湾の中国への依存度が高まり、最終的には中国に編入されると主張する。
中国の深圳にある北京大学HSBCビジネススクールのクリストファー・バルディングは英字紙サウスチャイナ・モーニングポストで「彼らの懸念の多くは、協定がもたらす経済的影響とは直接は関係ないように思える」と論じた。「台湾が恐れているのは、気付かないうちに中国にのみ込まれてしまうことだ」
中国政府はかねてから「一国二制度」を掲げ、台湾は中国の一部だとする立場をとってきたが、台湾は自らを独立した主権国家だとしてきた。台湾政府としては、今回の貿易協定が中台関係の改善にもつながると考えている。
台湾市民のもう1つの懸念は、協定によって本土の労働者が大量に台湾に押し寄せ、自分たちの職が奪われることだ。協定では本土の投資家に対し、広告や小売業、メディアなど64の業種について台湾への投資を認めているという。
これについて台湾政府は、台湾市場への参入が認められるのは一部の「認可された投資家」だけと説明する。さらに台湾で働くビザが発行されるのは、20万ドル以上の資本を持つ中国企業の労働者だけに限られている。
北京の対外経済貿易大学のエコノミスト龔炯(コン・チョン)によれば、中台間の投資貿易関係はいまだ発展途上。台湾から中国本土への投資は以前から認められていたため、「どこかの時点でその逆も認められる必要があった」という。
ミシェル・フロクルス
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