繁栄するタイ水産業に隠された漁業奴隷
ニューズウィーク日本版 / 2014年3月28日 12時9分
アメリカでもヨーロッパでもシーフードの人気は衰え知らずだが、その背後には想像もしない闇が潜んでいる。最近の報道で、世界最大のエビ輸出国として知られるタイの暗い秘密が明らかになった。漁業の現場が、暴力と人身売買の巣窟になっているというのだ。
ロンドンにある環境公正財団(EJF)が発表した調査報告書「海の奴隷制度」によれば、タイの水産業は船主や地元企業、腐敗役人が牛耳る人身売買と強制労働の温床と化している。
「漁業に従事する季節労働者の多くは人身売買で連れてこられてひどい虐待に苦しめられ、基本的人権を奪われている」と、EJFのスティーブン・トレントは言う。「彼らはタイの『漁業奴隷』として、世界第3位の水産物輸出と潤沢な儲けを誇る水産業を支えるために働かされている」
奴隷並みの年季就労契約や人身売買でタイの漁業に引きずり込まれた労働者の1人、21歳のミャンマー(ビルマ)人男性は何カ月も虐待と無報酬の労働に耐えた後、何とか逃げ出した。
彼はミャンマーから、「超過勤務手当があるパイナップル工場の仕事」があると言われてタイに連れてこられた36人の労働者の1人だ。1年前、彼らはバンコクの南にあるチョンブリ県で操業する漁船の船主に、奴隷同然に売り払われた。
この男性はEJFの聞き取り調査に対して、途中で3人が「行方不明」になり、そのうち年配の男性は船で働くことを拒否したために殺されたと思うと証言した。
結局、ミャンマー人労働者たちは補償もなく、10カ月間タイの漁船で働くことになった。逃げ出す前、男性は何度も暴行を受けたと言う。「魚を保存してある箱をうっかり開けたときに、背後から船長に殴られた」と、彼は語った。「とても強く殴られて気絶したが、船長はさらに私の顔を氷にたたきつけたようだ」。衝撃のため、左耳はよく聴こえなくなった。
乱獲と奴隷労働の悪循環
こうしたタイの漁場は、世界のシーフードのかなりの部分を供給している。タイは中国とノルウェーに次ぐ世界第3の水産物輸出国であり、国連食糧農業機関(FAO)の評価によれば11年の輸出額は約73億ドル。アメリカのタイからの水産物輸入量は昨年で16億ドル以上。アメリカで消費される貝類とエビの大半は、タイなどアジア諸国で捕れたものだ。
タイの水産業が外国から稼ぐ金の大部分は、国内の腐敗したひと握りの有力者の懐に入る。昨年にはカンタン地方で奴隷扱いされていた労働者たちが救出される事件が起き、業界全体に広がる搾取の構造が明らかになった。カンタン事件の捜査に関わったタイ警察の幹部がEJFに語ったところでは、多くの影響力のある人々から、地元の実業家を対象とする捜査の中止を要請する脅しが入ったという。
EJFの報告はまた、タイの水産業に規制がなく、管理の水準が低いことを問題視している。タイ政府は漁船や労働者の雇用に関する基準を決め、遵守させようとしているが、いつも失敗に終わってきた。
「資源が乱獲され、漁獲量が減ってきたため、事業主は立場の弱い労働者に儲けが出るまで海で漁を続けさせる。そのくせ人件費はますます削減しようとする」と、トレントは言う。「タイ政府と世界の水産業界は、この状態を無視し続けるわけにはいかない」
直ちに虐待をやめさせることができないのなら、レストランでタイのエビをボイコットするのが一番効果的だろう。
[2014.3.18号掲載]
ミシェル・フロルクルス
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