アラブ・サミットで見られた湾岸諸国の亀裂 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月3日 11時11分
サミットでは、「カタールを巡る問題はGCCの問題であってアラブ諸国全体のことではない」と、クウェート外務省が火種を回避しようとする一方で、当のカタールのタミーム首長は自らサミットに乗り込み、エジプトの新政府に対してはむろんのこと、イラクに対しても「スンナ派住民が疎外されていてけしからん」と気炎を吐いた。それを見越してか、サウディ、モロッコ、アルジェリア、イラクなど、そうそうたる主要国は元首級を派遣せず、皇太子か外相級の参加にとどまった。
しかしながら、GCCのほつれは、必ずしもカタールとサウディの分裂にみられるだけではない。カタールの問題が深刻化する前は、サウディにとっての喉元の魚の小骨はバハレーンだった。以前このコラムでも紹介したが(2012年4月、バハレーン紀行(1〜3))、バハレーンの住民の多数を占めるシーア派の動向、特にその民主化要求運動は、サウディが最も危惧することである。そのバハレーンで「アラブの春」が起き、バハレーン王制の安定性に黄色信号が灯ったことで、サウディはこれを機会にバハレーンを統合してしまえ、と考えた。そしてその後は、いっそのことGCC全体を統合してはどうか、という議論が交わされるようになった。ペルシア湾岸ではないが、ヨルダン、モロッコなど他の王国も加えて、「アラブの春」に象徴される民主化やイランを中心とするシーア派の台頭に対抗するための、保守派大同盟を作ろうとの案も、しばしば浮上する。
だが、GCC統合案には真っ先にオマーンが反対した。オマーンもまた、サウディと微妙なライバル関係にある。ホルムズ海峡を挟んでイランと対峙するオマーンは、80年代以来、イランと決定的に角突き合わせることを避けてきた。そのため、昨年11月に米政権がイランとの関係改善に動いたときにも、オマーンがその仲介役を果たしたのだ。これは、サウディの神経を逆撫でしたに違いない。
その他のGCC加盟国も、サウディと一心同体というわけにはいかない。アラブ・サミット開催国として心を砕いたクウェートも、GCCがヨルダンを加盟させるならそれはイヤだ、と考えている。
サウディアラビアにとってアラビア半島の国々は、ある意味でサウディ建国期に「征服」し損ねた国々だった。だが、アラビア半島で政治的、経済的に圧倒的に優位にあったサウディアラビアが親分風を吹かせることができる時代は、すでに過去のものとなっている。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
ニュースでよく聞く「ヒズボラ」ってそもそもなに?イスラエルとの戦闘はなぜ続くのか【中東情勢すっきり解説】
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年9月26日 21時0分
-
アラブ諸国の2023年の輸出額は前年比11.5%減、輸入額は9.7%増(中東、アフリカ、モロッコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、エジプト)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年9月25日 9時30分
-
GCCとの第1回FTA交渉会合を開催、ペルーとのCEPAは11月の実質合意に期待(インドネシア、湾岸協力会議(GCC)、ペルー)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年9月20日 1時15分
-
サウジ訪問中の中国首相、湾岸諸国との貿易交渉の加速呼びかけ
ロイター / 2024年9月12日 0時55分
-
改革派大統領誕生のイラン、10年内に大変動か=「厳格な宗教国家」とは程遠い一面も
Record China / 2024年9月10日 7時30分
ランキング
-
1中国大使「深圳の事件、冷静に対処する」 都内で中国建国75年レセプション
産経ニュース / 2024年9月26日 19時23分
-
2中国、海自艦の台湾海峡通過めぐり「政治的な意図を警戒」 中国外務省報道官が表明
産経ニュース / 2024年9月26日 17時36分
-
3香港ネットメディア前編集長に禁錮1年9月…報道を「扇動」と判断、香港返還後で初
読売新聞 / 2024年9月26日 23時45分
-
4ウクライナに1兆円超支援 米、来月独で首脳会合主催
共同通信 / 2024年9月26日 22時47分
-
5イスラエル、レバノン市民に電話で退避警告 国営通信社
AFPBB News / 2024年9月23日 18時31分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください