ロシアとの睨み合いはバイデンに任せろ
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月4日 12時16分
バイデン米副大統領の率直さには良い点も悪い点もある。バイデンにとって損なのは、あまりに歯に衣着せぬ物言いをすると、副大統領としても次の大統領候補としても人々が真に受けてくれなくなることだ。
バイデンの最も有名な失言からもそれは分かる。10年、オバマ大統領悲願の医療保険改革法の署名式で「これはファッキングな成果ですね」と耳打ちしたのがマイクに入ってしまった。
一方、率直に語れることの良さは、曖昧さを排除して核心を突ける点にある。その意味ではロシアがウクライナ南部のクリミア半島を編入して震え上がっている東欧・バルト諸国の指導者たちにバイデンが会いに行ったのは、まさに適任だといえる。ロシアのクリミア編入に対応してすぐポーランドのワルシャワに向かったのはもちろん、ロシアと国境を接するNATO諸国の安全保障を確約するためだ。
今までのところは、ポーランドの基地に米軍戦闘機6機を配備したぐらいだが、舞台裏ではバイデンと東欧・バルト諸国の指導者たちとの間で、どれだけの応援を出すかについて駆け引きもあっただろう。東欧・バルト諸国は、09年にオバマ政権が先送りにした東欧ミサイル防衛構想を前倒ししてほしいと頼んだはずだ。
集団防衛の誓いを再確認
だが最大の使命は、地域の集団防衛を定めたNATO条約第5条の神聖さを確かめ合うことだ。ロシアがポーランドやバルト3国にまで手を出すことなど許さない。その狙いはポーランド防衛というよりは、ロシアによる東ウクライナへの侵攻を牽制することだ。
バイデンのワルシャワでのスピーチは、完璧にその役割を果たしたように見えた。「この地域の同盟国すべてに間違いのないよう明言したい。NATO条約第5条の下に定める集団防衛の誓いは鉄より強い」
アメリカ人はバイデンを親切な伯父さんか愚か者としか思わないかもしれないが、東欧ではずっと影響力がある。90年代のユーゴスラビア紛争の際には米上院外交委員長として欧州の称賛とロシアの敵意の的だった。
中・東欧諸国をNATOに加盟させる東方拡大も推し進めた。当時も今も賛否が分かれる政策だが、ロシアを警戒するポーランド、エストニア、ラトビア、リトアニアには大きな安堵をもたらした。
ウクライナ危機がロシアのクリミア編入にまで至ったことについては、アメリカに打つ手はなかったのか議論が分かれる。
アメリカの保守派は、プーチンの軍事介入をオバマのせいにしようとする。リビアのベンガジ米領事館襲撃事件を防げなかったことや、シリアのアサド政権に化学兵器使用を「越えてはならない一線」と警告しておきながら結局制裁しない曖昧さ。それがロシアに付け入る隙を与えたというのだ。
だが、親ロシアのヤヌコビッチ大統領がウクライナの政権の座から親EU派に引きずり降ろされたとあっては、プーチンは何があっても武力介入しただろう。それをアメリカに止められたとは思えない。
いずれにせよ、NATO拡大の推進者で無遠慮で、時に無礼でさえある副大統領のほうが、この危機に対処するのにふさわしい。感情を表に出さず、ロシア政府に対する公然たる警告も個人的な電話も無視された大統領よりもずっと。
東欧訪問中のバイデンの言葉は抑制がきいていた。だがもう少し時間がたてば、抑制どころではなくなるだろう。プーチンの時代に、品格などに構ってはいられない。
マシュー・クーパー(ワシントン)
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