愛国心教育で自己肯定感は向上するのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月8日 13時2分
また、そうした変革への意志だけでなく、「自分は持てる側」であるから「持たざる側」への同情と再分配に熱心になるとか、「自分の属している集団には倫理的な問題がある」ので「自分がその集団を代表して謝罪することで倫理的に優越な立場を回復したい」などという衝動も、自己肯定感の発露として自然であるわけです。
そう考えると、愛国心教育というのは、その反対であって、自己肯定感の薄い人々の関心を促し、その中で精神的に国家に依拠するのも「良いことだ」という誘導をするというのであれば、成立するかもしれません。その意味で、いわゆる保守派の側に、巧妙なマーケティングの意識があれば、そのような愛国心教育なり、愛国運動というのも成立する可能性があります。
ただ、そうした危険な運動というのも、現時点では日本では顕著にはなっていないように思います。それはそれで良いことだと思います。
問題は、確かに日本の子供たちの間に自己肯定感が弱いということです。これは教育の問題であるというよりも、社会全体の問題であると思いますし、例えば自殺の問題であるとか、出生率の問題などにも相当な悪影響を与えていくのであると思われます。
この問題に関しては、愛国心教育よりも、批判する強さ、謝罪する強さ、というカルチャーの方が自己肯定感に親和性があると思います。では、そのような価値観に基づいて教育をすれば、子供の自己肯定感を養うことができるかというと、これもまた違うのではないかと思われます。
要するに、イデオロギーを教育の場に持ち込むことと、自己肯定感を養う教育というのは余り関係がないと思うのです。
短所を批判するネガティブなアプローチではなく、長所を認めるポジティブな姿勢の教育に改めるとか、ただでさえ社会の少数派になっている若年層から十分に話を聞く、あるいは変化の激しい時代において、将来の進路や人生設計に対して有効なサポートをするといった姿勢、それを教育の場で丁寧にやっていくしかないのではないでしょうか。
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