小保方氏の会見でみえた「科学コミュニケーション」のむずかしさ - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月9日 17時54分
問題がここまでこじれた責任は、理研にある。もともと学術誌に論文を掲載するのは学問的な手続きにすぎず、それで科学的事実が確認されるわけではない。iPS細胞のときは2006年8月に山中伸弥氏が学会誌に発表したあと、世界各地で追試が行なわれ、再現が確認されたあと2007年7月にNatureに掲載され、世界に発表された。
ところが今回の場合は第三者による追試をしないまま、いきなりNatureに掲載して理研が大々的に発表し、割烹着などのPRを過剰にやったことが裏目に出た。小保方氏も、メディアが殺到したときは「恐かった」と話している。
理研はSTAP細胞の特許を昨年4月に出願したが、その存在を研究所の中でも秘密にし、所内の研究会でも発表しなかった。このような秘密主義のために共著者にも情報が共有されず、チェックが不十分だったのではないかとの指摘もある。理研を今年度から補助金や給与などの面で優遇する「特定国立研究開発法人」に昇格させる話があり、派手に発表する意図があったのかもしれない。
特許を取るのもPRするのもいいが、肝心の事実確認より宣伝を優先したのが間違いのもとだった。小保方氏はユニットリーダーだが、研究プロジェクト全体の責任は笹井芳樹氏(発生・再生科学総合研究センター副センター長)にある。割烹着なども彼のアイディアだという。彼が理研の記者会見にも姿を見せず、小保方氏ひとりに責任を負わせているのはおかしい。
広報はバックオフィスの業務として軽視されがちだが、失敗すると今回のように悲惨なことになる。それに気づいた企業は早くから広報の専門家を育てているが、役所はいまだにバラバラだ。大学や研究所は最悪である。特に日本のメディアは科学リテラシーが低いので、科学コミュニケーションが重要だ。
再生医学の分野は日本の研究が世界のトップクラスで、今後いろいろな分野への応用が期待される。「STAP細胞が実用化して多くの人の役に立ってほしい」という小保方氏の気持ちは本当だろう。今回の事件を今後に生かすためにも、研究体制だけでなく情報管理体制を洗い直し、大学や研究所も広報の専門家を置くべきだ。
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