アメリカなき世界に迫る混沌の時代【前編】
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月22日 12時43分
アメリカは疲れ切っている。イラクとアフガニスタンでの12年に及ぶ戦闘で、数千人の兵士の命と巨額の国費が消えた。その結果、アメリカ人は疲弊し、分断され、戦争に二の足を踏む。
米政府は、現代版のローマ帝国さながらの狭量な政治的憎悪に翻弄されている。13年3月には財政赤字削減をめぐる民主・共和両党の協議が決裂し、歳出の強制削減が発動。国防費は削減された。
さらに、10月にかけて債務上限引き上げ問題をめぐる与野党の対立はエスカレート。米政府は、世界経済にパニックを引き起こしかねないデフォルト(債務不履行)の瀬戸際に追い込まれた。政府機関が閉鎖されるなどの大混乱を受けて、バラク・オバマ米大統領は10月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議を欠席せざるを得なかった(米軍をアジア太平洋重視に転換させる「ピボット」戦略の目玉となるはずの重要な会議だった)。08年の金融危機でアメリカ式経済モデルが地に落ちたように、13年の政治の迷走はアメリカ式政治モデルへの信用を失墜させた。
アメリカ人はかつて自分の国が世界で突出した存在であることに孤独を感じていたが、今では他国と距離を置きたがっている。といっても、アメリカが弱体化したわけではない。軍事力では他国の追随を許さず、景気は回復基調にある。失業率は低下し、エネルギーの外国依存度も短期間で急速に改善した。アメリカ人はただ、「世界の警察官」の役割を他の誰かに代わってほしいのだ。
シカゴ国際問題評議会の12年の調査では、アメリカが国際問題から手を引くべきと答えた人は、1947年以来最も高い38%だった(イラク、アフガニスタンでの戦争の渦中に育った18〜29歳では半数以上だ)。
アメリカ人にとって「世界」は不愉快な存在になりつつある。大西洋や太平洋の海上交通路をなぜアメリカが警備するのか。独裁者たちが自国民を苦しめているというだけで、なぜ米軍を派遣しなければいけないのか。ピュー・リサーチセンターの最新世論調査でも、アメリカ人の52%が「アメリカは自国の問題に専念し、諸外国の問題は当事国の裁量に委ねるべきだ」と答えている。
一方、世界がアメリカに愛想を尽かし始めた面もある。最大の原因は、元CIA職員のエドワード・スノーデンが暴露した米国家安全保障局(NSA)の監視活動だ。
人々の通信を監視し、行動や居場所を追跡するNSAのスパイ活動は、多くの人々の想像をはるかに超えるレベルだった。とりわけ深刻なダメージをもたらしたのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相をはじめ同盟国の指導者たちの通信まで傍受していた事実だ。これによって、ただでさえ低下していたアメリカへの信頼は一段と傷つき、そもそも米政府を信頼していいのかという疑問まで浮上している。
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