後ろめたさがなくなった? 日本の対イスラエル接近 - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年4月30日 21時26分
かつて西岸、ガザで吹き荒れていた対イスラエル抵抗運動であるインティファーダは、昔の勢いを失っているが、それはイスラエル側の姿勢が変わったからではなく、抵抗する側が疲れ果て、なすすべもなくなったからだ。だからといって、根本にある「占領」という不正義が消え去ったわけではない。
まあでも、当面治安上の危機は薄れている(ように見える)し、他のアラブ諸国はそれぞれ自国や周辺国との問題で手一杯だし、イスラエルに進出するのにリスクが減ったからいいんじゃないの、という考え方もあるだろう。だが問題は、本当に欧米先進国がイスラエルと密な関係を持っているのに日本は乗り遅れているのか、ということだ。
4月27日、米のオンライン紙「デイリービースト」は、ケリー米国務長官が「イスラエルは和平を結ばないと(かつての南アフリカの)アパルトヘイト国家になってしまう」と発言した録音テープを暴露した。国際的に「アパルトヘイト」といえば、人種差別の最も忌むべき形容詞として使われる。その後各界から批判が集中したケリー氏は、発言を撤回したが、自らが仲介するイスラエル・パレスチナ間和平交渉が一向に進まず、イスラエルにいらだちを隠せないことは確かだ。
4月8日にはケリー氏は米上院で、イスラエルが入植プロセスを進め、パレスチナ人政治犯の釈放にも応じないことが中東和平交渉の頓挫の原因だ、と批判している。さらにそれに先立つ2月1日には、ミュンヘンでの安全保障会議で「イスラエルに対する国際的なボイコットが進んでいる、それでいいのか」、とまで述べた。イスラエル建国以来、イスラエルとの同盟関係を中東政策の最大の柱としてきた米国政府としては、とくに国内ユダヤ人票を支えにしてきた民主党政権としては、異例の対応だ。
政府だけではない。米国内に、対イスラエル批判気運が高まっている。昨年12月16日、米国の学者、研究者約5000人からなる「米国研究協会」が、イスラエルに対する学術的ボイコットを決定した。イスラエルがパレスチナの占領を続けていること、そして国連決議などに違反している、という理由で、加盟の学者にイスラエルとの共同研究を止めるよう呼び掛けたのである。これはまさに、80年代に米国の学術機関がアパルトヘイト反対のために南アフリカに対して行ったことと、同じだ。ケリー氏は「失言」として撤回したが、米国の学術界ではすでにイスラエル=アパルトヘイト時代の南アフリカ、という認識が定着しているのだ。
1973年、オイルショックで親アラブ政策を取る前、日本は米国の対イスラエル支援政策に追随するために、さして現実的な利害関係があったわけではないイスラエルを、支援し続けてきた。その日本が、米国やその他の西欧諸国がイスラエルと距離を置きつつある今、あえてイスラエル進出を模索している。それが国際社会のなかでどのように受け止められるのか、考えてみる必要があるのではないか。
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