21世紀にマルクスはよみがえるか - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年5月7日 18時23分
このような資本過剰は、人口が減少して成長率の下がる国でもっとも顕著にあらわれる。その例が日本である。第二次大戦後、欧米の水準にキャッチアップする過程ではg>rだったが、80年代に逆転した。90年代にはバブル崩壊で成長が止まり、r>gになって企業の貯蓄超過が起こり、賃金が下がった。
このような所得格差を経済学では「労働生産性の差が所得格差になる」と説明してきたが、ピケティも指摘するように、これは単純労働にしか当てはまらない。ルパート・マードックが年収2500万ドルもらっているのは、彼が平均的な労働者の1000倍働いているからではなく、彼が自分の所得を自分で決めることができるからで、その子の所得が高いのは親の財産を相続できるからだ。
日本では、別の形で資本過剰による不平等が拡大している。2000年代に入って名目賃金が下がり続け、非正社員の比率が労働者の4割に近づく一方、企業は貯蓄超過になっている。余剰資金は資本家にも労働者にも還元されないで、経営者の手元現金(利益剰余金)になっているのだ。資金を借りて事業を行なうための企業が、リスクを取らないで貯蓄していることが日本経済の萎縮する原因であり、デフレはその結果にすぎない。
では、この格差を是正するにはどうすればいいのか。フランス社会党員であるピケティは「グローバルな資本課税」を提言するが、これに賛成する人はほとんどいない。先進国が一致して増税することは政治的に不可能であり、望ましくもない。しかし課税の中心を所得から富に移し、その課税ベースを広げるべきだという彼の主張は合理的である。
マルクスの『資本論』がドイツで1867年に自費出版されたとき、1000部売れるのに5年かかり、英訳されるのに20年かかった。その本が20世紀の歴史を(よくも悪くも)変える絶大な影響力をもったことを考えると、21世紀の『資本論』が全米ベストセラーになったことは、大きな意味をもつかもしれない。
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