人気果物バナナに「甘くない現実」が迫る
ニューズウィーク日本版 / 2014年5月14日 14時50分
国連食糧農業機関(FAO)は先週、世界のバナナ生産が危機的状況にあるという警告を出した。原因はアジアからアフリカ、中東へと拡大しているバナナの新型の病気「パナマ病TR4」だ。
既に被害はフィリピンやインドネシアなど東南アジアで数万トンに及び、ヨルダンとモザンビークでも発症が確認された。世界有数のバナナ生産地である中南米にも感染が広がる可能性もある。そうなれば、欧米や日本などバナナ輸入国は大打撃を受ける。
パナマ病TR4は、年間1億ドルを超える世界のバナナ生産量のうち、約半分(輸出用バナナとしては約95%)を占めるキャベンディッシュ種の天敵だ。キャベンディッシュ種などの食用バナナは、野生のバナナと異なり種子を作らず主に株分けで増える。ただどのバナナも同じ遺伝子を持つため、共通の病害に弱い。発見が遅れれば、全滅の可能性すらある。
パナマ病TR4には有効な予防策もない。バナナがこの病気に感染すると幹が黒くなって腐るが、こうなると株ごと切り倒すしか対策がない。土壌伝播性の病気のため、感染が確認された農場を隔離し、土や人、収穫用車両の移動を制限する必要もある。バナナの病気の中でも、特に厄介な存在なのだ。
FAOは各国政府に対し、感染拡大を防ぐためパナマ病に耐性のある種に早急に替えるべきだ、と提言している。だが、それも抜本的な解決にはならないだろう。いずれ新しい病気が出現して、またバナナを脅かすからだ。
バナナの歴史は病気との闘いの歴史でもあった。20世紀半ば頃まで食用バナナの中心品種だったグロス・ミシェル種は、パナマ病の蔓延で壊滅的な被害を受けた。その後パナマ病に強い品種として台頭してきたのがキャベンディッシュ種。しかし、その「有望株」も、今や新たな病気の蔓延で危機に瀕している。
バナナにはパナマ病全般に対して耐性のある「FHIA-25」という品種があるにはある。ただ「FHIA-25」は主に加熱料理用で、生食用の品種と比べると味は単調。代替品として広がりそうにない。
手軽な果物として親しまれてきたバナナが食卓から消える日が来るのだろうか。
安藤智彦(本誌記者)
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