「残業代ゼロ」に反対する工業社会の亡霊 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年5月14日 16時6分
ひとりが同じ職場にべったり拘束されるのは企業にとって高コストになるだけでなく、労働者にとっても苦痛だ。職場にいつまでも残って残業代をもらうより、家族と過ごす自由な時間のほうが価値がある。雇用規制は社内失業している中高年を守る役には立つかもしれないが、雇用コストを高め、雇用創造を困難にする。いま必要なのは、雇用形態を多様化して企業と労働者の自由度を高めることだ。
全員が同じ勤務時間で働くのは、たかだか最近200年ぐらいの特殊な労働形態である。歴史の大部分では人々は必要なときだけ働き、時間は季節によっても地域によってもバラバラだった。機械制大工業になってから、時間は正確に同じで、人々は時計で同期をとって共同作業するようになった。工場では同じ時間に出勤して同時に仕事しないと効率が落ちるので、資本家は労働者に時間厳守を要求した。工場では個人にノルマが与えられ、人々は限られた時間の中で休む暇なく同時に働いた。
しかし脱工業化社会では工場が作業の場ではないので、人々は非同期的に行動する。時間は個人化し、労働者は同期から解放されて自由になったのだ。日本はもう「ものづくり」で成長することはできない。これからは創造的な仕事にふさわしい柔軟な働き方を、それぞれの職場で工夫する必要がある。残業代で労働者を遅くまで職場にしばりつけるのは、日本経済の行き詰まりをまねいている工業社会の亡霊である。
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