戦争を防ぐには「戦争のできる国」になる必要がある - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年5月28日 17時3分
集団的自衛権をめぐる与党協議は難航し、今国会の成立はあやしくなってきた。政府は武力攻撃に至らない「グレーゾーン」への対応などを公明党に説明したが、創価学会が集団的自衛権に反対を表明した公明党は動かない。こんな常識的な問題でここまで話がこじれる原因は、日本人の平和主義にある。
平和主義というと日本ではいい意味に使われるが、英語のpacifismは、他国が攻めてきても抵抗しないで降伏する「無抵抗主義」のことだ。朝日新聞は、集団的自衛権についての安倍首相の記者会見の翌日に「近づく戦争できる国」という見出しで反対キャンペーンを張ったが、これが平和主義の典型である。
朝日新聞が望むように日本が「戦争のできない国」になったらどうなるか、考えてみよう。軍事的な問題を考えるとき、よく安全保障のジレンマという概念が使われる。これはゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」で、次の図のような利得行列であらわすことができる(数字は自国の利得で、他国と対称とする)。
たとえば他国が攻撃しない場合は、自国が一方的に攻撃する(右上)と最高の利得(2)が得られ、他国が攻撃してくる場合には自国も報復する(左上)と利得は-1になり、これは何もしない場合の利得(-2)よりましなので、どっちにしても攻撃することが有利だ。これは他国についても同じなので、互いに攻撃する戦争(-1)が均衡になり、それより望ましい平和(0)は実現できない。
これは実はジレンマではなく、先制攻撃は支配戦略(つねに望ましい戦略)だから、人類は100万年以上にわたって戦い続けてきた。ガットの『文明と戦争』によれば、石器時代には人類の10~20%が戦争で殺されたが、その原因は人類が武器をもったことだった。石斧で殴り殺すと先手必勝になる非対称性があるからだ。
戦争を防ぐために国家ができたが、今度は国家間で戦争が起こる。ここで上の図の自国を中国として、日本が「戦争のできない国」になると宣言したら中国はどう考えるか、シミュレーションしてみよう。
日本(他国)は右の欄の行動(攻撃しない)しか取らないのだから、中国(自国)の利得は攻撃したら2で、攻撃しないと0だ。したがって尖閣諸島などを攻撃することが有利だ。日本は報復しないのだから中国には失うものがなく、戦争は際限なくエスカレートするだろう。つまり日本が「戦争のできない国」になることは中国の先制攻撃のリスクをなくし、戦争を誘発するのだ。
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