農業改革の焦点は「全中の廃止」ではない - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年6月11日 18時39分
だから貿易自由化は生産者から消費者への所得移転だが、これはゼロサムゲームではない。自由化で死荷重がなくなると、社会全体としての利益が増えるからだ。生産者は損するが、彼らの損失(B-E)に相当する額を所得補償すれば、生産者の所得は変わらないで消費者が利益を得る。価格も国際水準で決まるので、輸出入額には影響しない。
つまり関税を所得補償に切り替えれば、消費者も生産者も利益を得るのだが、農協は損する。農協は全中を頂点とする社会主義国家である。毎年、減反の割り当てが全中から各県の中央会に下ろされ、それと一体で補助金が各農協に分配される。これが農協の最後の存在意義になっているが、TPP(環太平洋経済連携協定)で農業保護が槍玉に上げられている。
そこで出てきた妥協策が、この全中廃止だ。これは一見ドラスティックな改革にみえるが、全中がなくなっても各県の中央会が補助金の分配権限をもつかぎり、農協は生き残る。関税が、こうした補助金の財源になっている。本質的な問題は全中の存在ではなく、減反や関税と一体になった裁量的な補助金なのだ。
全中を廃止しなくても、関税や補助金をやめて所得補償に切り替えれば、補助金を分配する機能しかない農協は(金融機能を除いて)消滅する。農協は、戦時体制でつくられた「農業会」の遺物である。それをなくすことは、日本が「戦前レジーム」を清算して普通の国になる総仕上げだ。
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