イラクはどこまで解体されるか - 酒井啓子 中東徒然日記
ニューズウィーク日本版 / 2014年6月13日 19時56分
ISISは、スンナ派のイスラーム主義の組織である。ISISにとってシーア派はイスラーム教徒とは認められない、敵対相手だ。かつてサウジアラビア建国期に、ワッハーブ派勢力がイラクに侵入してシーア派聖地を襲撃した歴史もある。だが、あえて今、シーア派地域まで一気に征服の野望を抱くだろうか?
問題は、今回のISISの進軍には、呉越同舟的にさまざまな勢力が関与しているらしいことだ。なかでも、ISISと連携しているナクシュバンディー教団部隊は、フセイン政権時代のバアス党No.2だったイッザト・イブラヒームが指揮していると言われている。なるほど、ISISがここまで本格的な軍事侵攻を進められた背景には、旧バアス党勢力や、イラク戦争後に解体された旧軍や旧治安機関など、戦闘の元プロが関与していたからだと考えれば、納得がいく。
ISISがスンナ派地域にイスラーム国を建設することを目的としているなら、イラクとシリアのスンナ派地域を制圧したところで、いったんは満足するかもしれない。だが、旧バアス党や旧軍など、旧体制勢力がイラク戦争で奪われた権力を再び取り戻しにやってきたのだとしたら、その目的はイラク全土の奪還にある。与党シーア派政治家は、「旧体制が権力を奪還した統一イラク」になるぐらいなら、「イラクの分裂」を死守すべき、と考えているのだ。
そして、そのためにイランの手も借りざるを得ない、と判断したら、そこで展開されるのは、30年前に旧フセイン政権が戦ったイラン・イラク戦争の再現になるのではないか。しかも、前線をイラク国内に移して、である。
イラクはいったい、どこまで「解体」されるのだろう。イラク戦争前のフセイン政権時代に戻されるのだろうか。イラン・イラク戦争が行われていた80年代か。それとも、イラクとシリアにイスラーム国が成立してオスマン帝国時代の「カリフ制」を再興する、100年前の第一次世界大戦以前にまで、戻そうとするのだろうか。
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