中国の李首相が英女王との面会を要求した理由とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年6月17日 12時32分
2009年の習近平氏の日本に対する対応も同様です。「自分はまだ次期主席という存在だが、ここで日本の天皇に面会しておけばハクが付くというのは本当か?」と習氏が尋ねたところ、出身派閥である太子党の外務官僚が「ここぞ」とばかりに思い切り「頑張ってしまった」ということなのかもしれません。
もう1つは、他でもないこの習近平氏と、李克強氏の間に権力闘争があるという見方です。当人同士は国家主席と首相という職責を淡々とこなしているだけかもしれませんが、両者の間には派閥抗争のメカニズムを背景とした確執があるという見方もあります。
更に言えば、経済の近代化へ向けて厳しく引き締めようという李首相と、問題を先送りしようという習主席の間には、政策面での綱引きがあるという見方もあります。それは正に綱引きであり、両者が対立することで現在の中国経済の均衡が保たれているという見方も可能かもしれません。
そう考えてみると、2009年に習近平氏が天皇会見にこだわったのと、今回李首相が女王面会にこだわったのは、相互に政治的な権威を誇示するためには、必要であったという可能性もあるわけです。
ちなみに、既にイギリスに到着している李首相に関して、BBC(電子版)は記事としては人権問題などについて厳しいことも書いていますが、記事内の李首相の紹介では笑顔の写真を使用しており、キャメロン首相との「ツーショット」も双方笑顔の友好ムードのものを使っています。イギリスとしては、国家のインフラ整備に関して、依然として中国マネーの投資を期待する、それが今回の首脳会談のテーマであることに変わりはないようです。
一方で、アメリカの各メディアは、この「面会強要事件」に関しては、ほとんど取り上げていません。今日のアメリカは、8月上旬に米証券市場への上場が予想される中国IT業界の巨人「アリババ・グループ」に関して、第二弾の上場目論見書が公開されたところ、業績予想がやや低めに修正されたのを嫌気して、関連の株が下げています。
いずれにしても、イギリスもアメリカも、中国の動向に関しては非常に神経を使っています。同時に経済的な関係に関しては成果が出るのなら、その成果を実現したいという点では、決して後ろ向きではありません。その辺の複雑で微妙なニュアンスの中に、現在の英中関係、米中関係があるように思います。
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