振り子のようなアメリカの中東政策
ニューズウィーク日本版 / 2014年6月24日 16時57分
アメリカのジョン・ケリー国務長官は今頃、エジプトでの自分の発言を取り消したいと思っているはずだ。
ケリーは先週末、カイロで軍部出身のアブデル・ファタハ・アル・シシ新大統領と会談した後、エジプトへの軍事支援の再開を約束。米政府とシシ政権の関係は「とりわけ友好的だ」と述べた。
ケリーはさらにシシの人権に対する意識も評価。「私たちは活気ある市民社会の重要な役割、表現の自由、法治主義、民主主義の順守について話し合った」と、ニューヨーク・タイムズ紙に語った。
しかし彼のエジプト訪問が終わってから数時間後、エジプトの裁判所はカタールの衛星テレビ局アルジャジーラの記者3人に対し、前政権を担ったムスリム同胞団と共謀して虚偽の報道をしたとして禁固7〜10年を言い渡した。
このニュースを受け、ケリーは国務省を通じて非難声明を発表。判決を「恐ろしく厳格だ」「このような不公正は許されない」と糾弾した。
国務長官としてこの態度の変わりようは衝撃的だ。米エジプト関係の改善を喜々として語った翌日には、相手国を非難する羽目に。しかも、シシとは会談で人権問題を語り合ったと報じられていたのに──。
イラク不安定化でエジプトにすり寄った
この急変ぶりに、米政府にとってはばつの悪い疑問がわいてくる。アメリカはシシ政権による人権侵害に目をつむってまで、エジプトとの関係を改善したかったのか?
ブルッキングズ研究所の中東専門家シャディ・ハミドは、ツイッターでこう非難した。
「アメリカは何でそこまでシシにひれ伏す必要があるのか」
「ケリーのシシに対する称賛は度を超えていた。ケリーがこんなに皮肉がうまいとは。いやそれとも本当にエジプトが人権問題に取り組んでいるとでも思っているのか」
アメリカの対エジプト政策の変化は、中東におけるオバマ政権の選択肢が限られてきていることの証しだ。米エジプト関係は昨年のクーデター後に冷え込み、アメリカからエジプトへの軍事支援も途絶えていた。
しかしシリアやイラクが不安定化していくなか、アメリカはシシに対する非難姿勢を弱めたのだ。
ケリーのシシに対する態度が急変したことを、禁固刑を言い渡されたジャーナリストたちは見逃さなかった。裁判所で判決文が読み上げられる中、3人のうちの1人は叫んだ。「ジョン・ケリーはどこだ?」
マット・スキヤベンザ
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