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「日本の規律が欲しい」とコロンビア人は言った - 森田浩之 ブラジルW杯「退屈」日記

ニューズウィーク日本版 / 2014年6月27日 21時16分

 彼は続けて「日本でいちばんいい選手はエンドウか」と言った。遠藤選手には悪いが、外国の人がこんなふうに名前をあげるのはちょっと意外な気がしたので、「本田が日本のエースだという人が多いですね」と、つい言ってしまった。すると最初に質問をした男性のさらに左側に座っている男性が「ACミランでプレイしている選手だよね」と言う。なんだ、コロンビアのファンは日本のことをけっこう気にしてくれていたんじゃないか。

 そういえばスタジアムで酒を回してくれたお兄さんも「背番号13はなんていう名前だっけ? オクブ? オクべ?」と言っていた。もちろん大久保選手のことなのだが、代表に「サプライズ招集」されたとして話題になった大久保の名前も、正確ではないにせよ頭に入っているとは、コロンビアのサポーター恐るべしである。

 コロンビアのサポーターとこれだけ話ができたのは、とても楽しい経験だった。僕がブラジルで話ができる現地の人は、どうしてもホテルやレストランのスタッフ、あるいはタクシーの運転手などに限られてしまう。でも彼らは往々にして英語を話さないし、僕はポルトガル語を話せない。だからタクシーの運転手が「日本から来たのか。日本のフチボウ(フットボール)は......」などと話しはじめても、適当に相づちを打つしかない。実はこちらが思いもしないような興味深いことを言っているかもしれないのだが。

 この試合をめぐる一連のやりとりで最も興味深かったのは、酒を回してくれたコロンビア人男性が試合終了後に僕に言った言葉だ。

 "I wish we have your discipline."

「コロンビアにも日本のような規律が欲しい」といった意味だろう。4-1で勝った相手のファンに言うことではないように思えるが、彼がまじめに言っていたことは明らかだった。

 この試合を見て、日本代表の「規律」が優れていたと今さら感じた日本人ファンはほとんどいなかったに違いない。なにしろ大差で負けているのだ。けれども外国人の目から見れば、僕らには見えないことが浮き彫りになることもあるのだろう。

 コロンビア人の彼の言葉は、代表のプレイスタイルについてだけではなく、おそらく国そのもののあり方についても無意識に触れたものだ。日本のメディアが日本代表について「組織で戦うのが強み」と、口癖のように言ってしまうのに似ている。代表のサッカーを語るとき、人々は「われわれ国民はこうあるべき」という点を知らず知らずのうちに語っていることがある。それが世界で最も人気のあるスポーツといわれるサッカーの面白い部分であり、怖いところだ。

 4年に1度のワールドカップの成績をめぐって国のムードが大きく変わるのも、サッカーだからこそなのだろう。

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