中韓の笑顔に隠された複雑な事情
ニューズウィーク日本版 / 2014年7月8日 14時54分
中国の国家主席が今月初めに訪韓する。中国のメディアも韓国のメディアも徹底して愛国的だから、どちらも自己満足と虚栄に満ちた報道に終始し、どちらも真の問題には触れないだろう。どちらの国の政府も反日感情を利用するのは得意だから、たぶん「日本の軍国主義化」の話も蒸し返される。そうして巧みに、中韓関係における真の問題点は隠蔽される。以下では、おそらく語られることのない真の問題を検証したい。
韓国は経済面で中国に、軍事面でアメリカに依存し過ぎている
中国が世界第2位の経済大国となった今、韓国の輸出産業は中国の8兆㌦市場なしに生きていけない。日本もそうだが、韓国も輸出で稼ぐことを成長戦略の要としてきた。だから新たな輸出先の開拓は、政治の重要な使命となっている。
中国の成長率はまだ高いから、今後も韓国の経済ナショナリズムを支える役を果たせるだろう。なんといっても中国は隣人だし、その市場は巨大だ。この20年で、中国は韓国にとって最大の輸出先となっている。
一方で韓国は軍事面でアメリカに頼り切っており、国防支出はGDPの2・5〜3%程度にすぎない。もちろん、単独で北朝鮮の侵攻をはね返すには不十分だ。アメリカは韓国に国防費の増額を求めているが、簡単に応じれば左派系の野党から猛反発を食うのは必至だ。
対北朝鮮でも韓国は中国への依存を深めている
東西冷戦の時代、北朝鮮をめぐる状況はかなり複雑だった。しかし今は、わりとシンプルだ。
現在のロシアは、北朝鮮の問題に距離を置きたがっている。北朝鮮に接近する姿勢を見せたとしても、それはアメリカを牽制する目的に限られるだろう。
日米韓の3カ国は、とりあえず対話の窓口は開けておくが、基本的には強硬な姿勢を維持することで一致している。こうなると、不敵な挑発で周辺諸国を翻弄する北朝鮮の作戦も、なかなか効かない。
北が日米韓の民主主義陣営の圧力をかわし、国連の制裁を避けたければ、とりあえず中国の機嫌を取るしかない。ロシアを当てにできない以上、今の北朝鮮にとって唯一の命綱は中国だ。
もしも中国が北朝鮮に対する経済的・外交的な支援を断つなら、北朝鮮は大きな打撃を受ける。韓国の大統領としても、中国の影響力行使に期待して、中国に寄り添うしかない。将来的な南北統一も、中国の協力なしには不可能だ。
だから韓国は中国の影響力拡大に期待したいが、領土問題では妥協できない
アジアにおけるアメリカ最大の同盟国である日韓両国の間にくさびを打ち込みたい。それが中国の本音だ。そのために中国が意図的に韓国民の反日感情をあおっているというのは公然の秘密だ。
もしもアメリカがアジアに無関心で、日本とも韓国とも同盟関係になかったら、韓国は日中のどちらをパートナーに選ぶだろう?
同じ自由主義・民主主義の国という点では日本と組むのが自然だろうが、韓国民の反日感情は根深いから、中国にすり寄る可能性も大いにある。
しかし領土や領海の問題になると、韓国政府も譲れない。昨年、中国が一方的に東シナ海上空に防空識別圏を設定したときは韓国も猛反発し、自らの防空識別圏拡大で対抗した。
韓国は黄海の領海内に侵入する中国「漁船」にも強硬な姿勢で臨んでいる。中国は北方限界線(黄海上の軍事境界線)を認めておらず、その近辺の漁場を北朝鮮から借りて操業しているが、こうした中国船を韓国は容赦なく拿捕している。
それでも、全体としてみれば韓国のほうが立場は弱い。国力では比較にならないし、対北朝鮮では中国の協力が不可欠だ。しかし中国も、領土問題ではそう強引に動けない。下手をすれば米日韓の中国包囲網ができてしまうからだ。
中国にとってのベストな選択は、韓国を自陣営に取り込むこと。だから習は、朴に精いっぱいの笑顔を見せるはずだ。
[2014.7. 8号掲載]
ロバート・E・ケリー(釜山大学准教授)
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