これは本当にゴジラ映画か?
ニューズウィーク日本版 / 2014年8月1日 11時24分
この作品は「怪獣映画の枠を超えた、人間が主人公の家族のドラマ」だと宣伝されている。確かにジョーとフォード父子の確執、愛する妻と息子を守るためのフォードの戦いなど、家族ドラマ抜きには語れない。だが、それこそが一番の問題だろう。
ゴジラ映画の見どころは何といっても、ゴジラが雄たけびを上げ、放射熱線を吐き、街を破壊し、敵の怪獣と戦うところ。自然か神か、人知を超えた脅威の存在がもたらすカタルシスだ。なのにこの作品では特別感動もない人間ドラマに時間が割かれ、ゴジラが全貌を現すまでとにかく待たされる。「早くゴジラを見せてほしい」と途中で何度も思った。
その間に画面を動き回り、人間たちを翻弄するのがゴジラの敵となる怪獣ムートー(Massive Unidentified Terrestrial Organism〔未確認巨大陸生生物〕)だ。昆虫にキリスト教の悪魔を掛け合わせたような姿で、東宝のライバルの大映が生んだ怪獣ギャオスにも似ている。
着ぐるみ姿が懐かしい
やっとムートーを倒すためにゴジラが登場しても、「ムートー映画?」と思うほどゴジラの存在感がない。108メートルと初代ゴジラの2倍もあるせいか、画面から体がはみ出てばかり。さらに暗い画面と、崩落する高層ビルや粉塵が邪魔をし、怪獣たちの姿がよく見えない。テンポの悪い脚本と相まって、フラストレーションがたまる。
俳優陣も生かされなかった。芹沢役の渡辺は眉間にしわを寄せ、遠い目をしてうなるばかり。英語が得意でなく、寡黙な人物という設定だとしてもあまりに仕事をしていない。「世界のワタナベ」を登場させて日本の観客に敬意を払いたかったのかもしれないが、あれではアウェー感ばかりが強調され逆効果だ。
芹沢の助手であるグラハム博士(サリー・ホーキンス)もおろおろと彼にまとわりつくだけ。芹沢の言葉が足りない部分を補い、状況説明する役割しか果たしていない。ジョンソンはむきむきに肉体改造して役に臨んだが、かえって繊細さ漂う彼の持ち味が失われてしまった。
では見どころはないのかといえば、50年代の記録映像が流れるオープニングにはわくわくするし、ゴジラがムートーの口をこじ開けて青い炎を吐くところやラストシーンはかっこいい。
ゴジラの造形はイグアナもどきだったエメリッヒ版と違い、オリジナルにかなり忠実なのは間違いない。咆哮も迫力がある。それでも、CGゆえの平板さがなんとも残念。着ぐるみでスーツアクターが演じる日本のゴジラの恐ろしいが、どこか愛着を持てる姿が懐かしい。
[2014.7.29号掲載]
大橋希(本誌記者)
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