ポリオ撲滅活動の敵はイスラム武装組織
ニューズウィーク日本版 / 2014年8月7日 12時39分
手足の麻痺を引き起こしたり場合によっては命にも関わる感染症、ポリオ(小児麻痺)。この病気の予防・撲滅を目指す活動には、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツらが年間10億ドル以上の資金を寄付している。
WHO(世界保健機関)によればこうした活動のかいあって、1988年以降ポリオの発生数は99%も減少した。にもかかわらず、世界には今もポリオが流行している地域がある。ナイジェリアとパキスタン、アフガニスタンのイスラム武装組織が支配する地域だ。
「ポリオワクチンの接種プログラムが襲撃の標的になっている」と、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団などの支援を受けてWHOやユニセフ(国連児童基金)などが展開する「世界ポリオ撲滅イニシアチブ(GPEI)」の報告書は指摘する。「最前線で活動していた25人以上のスタッフが、予防接種プログラムに関係したという理由で殺されている」
ナイジェリアでは、北部で勢力を伸ばしているイスラム武装組織ボコ・ハラムが、パキスタンやアフガニスタンではタリバンが、外国人の医療関係者を欧米諸国のスパイではないかと疑って襲撃している。
過去には実際、医療支援がスパイ活動に利用された例があった。CIA(米中央情報局)は2011年、偽の予防接種プログラムを隠れみのに使って、国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディンの行方を突き止め、殺害に成功した。
そのせいで予防接種活動をめぐる状況はさらに悪化したと、メリーランド大学に本拠を置く研究機関「テロおよびテロ対策研究のための全米コンソーシアム」の研究者でボコ・ハラムに詳しいエイミー・ペートは言う。「予防接種の関係者が直接狙われるようになった。(予防接種関係の)組織は外国政府の手先だという彼らの主張の一部が正当化されてしまった」
GPEIによれば昨年以降、ナイジェリアで53例、パキスタンで93例のポリオの発症例が確認されている。WHOのマーガレット・チャン事務局長は5月、ポリオウイルスの感染が拡大しているとして「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。
武装組織に隠れて接種も
ボコ・ハラムは昨年2月に予防接種プログラムの関係者9人を殺害したほか、今年3月には3人を誘拐した。襲撃の背景には、外国人医療関係者への不信感に加え、欧米の科学や教育、医療がイスラムの教えに反するという考え方がある。
「(西洋医学は)イスラムの文化に根差したものではなく、彼らの価値観をゆがめるために使われているというわけだ」と、ピートは語る。
09年のBBC(英国放送協会)とのインタビューで、ボコ・ハラムの創設者モハメド・ユスフは自らのイスラム観と欧米の科学は相いれないと述べ、その後、公に予防接種を否定するようになった。
「ボコ・ハラムとパキスタンやアフガニスタンのタリバンは、イデオロギーや戦略も同じなら、もたらす危険も同じだ」と、ナイジェリア公民権会議のシェフ・サニ議長は英ガーディアン紙に語っている。
その一方でどの地域でも、武装組織に隠れて子供たちにこっそり予防接種を行う組織が生まれ、活動を展開している。
望ましい解決策とは言えないが「やらないよりはましだろう」とペートは言う。だが各地域の宗教指導者たちが予防接種に好意的な発言をしない限り、真の変化は訪れない。
[2014.7.29号掲載]
キャスリーン・コールダーウッド
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