石油ショックは再来するか - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年8月6日 18時0分
したがってLNG価格の上昇率95%から原油価格の上昇率を引いた80%(年2.8兆円)が、原発停止によるネットの損失である。これが日本のGDPを0.5%以上低下させ、企業のコストを上昇させている。このまま電気料金が震災前の60%も上がると、日本から製造業は出て行くだろう。
2000年代に入ってから、日本の交易条件(輸出/輸入価格比率)は50%近く下がった。これは新興国の成長でエネルギーや農産物などの第一次産品の価格が上がる一方で、日本製品の国際競争力が新興国との競争で低下したためだ。このため円安で製品輸出が増えず、エネルギー輸入額が上がって貿易赤字が増えたのだ。
こうした供給力低下とコスト上昇の圧力が、大幅なGDPの低下になって出てきた。消費支出も大幅に落ち込み、日経平均株価は今週に入って5日続落した。このままでは、リーマン・ショックのようなパニックが起こるおそれもある。
石油ショックの教訓は、供給ショックが起こったとき需要を追加してはいけないということだ。1970年代に欧米では、インフレで失業率が上がったため、財政・金融政策で総需要を拡大したが、それがかえってインフレを加速して、長期にわたるスタグフレーション(インフレと不況の同時進行)が続いた。
日本では日銀が過剰流動性を回収し、1979年の第2次石油危機では引き締めたため、欧米ほどひどいスタグフレーションにはならなかった。今回も2%のインフレ目標にはこだわらないで、日銀がコストプッシュ・インフレを抑制する必要がある。特にインフレが金利上昇(国債価格の崩壊)をまねくと、金融危機が起こるおそれがある。
日銀の黒田総裁は最近「日本経済の供給力が低下している」と発言しており、こうした情勢の変化を理解していると思われるが、政治家が「増税の悪影響だ」と騒いで大型補正予算を組むのが心配だ。大事なのは需要の追加ではなく、供給のボトルネックになっている原発の正常化である。
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