ミズーリ州の暴動は沈静化へ向かうのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年8月21日 12時38分
ですが、最終的にはメディアも政府も冷静な対応で一貫したため、射殺した自警団員に無罪判決が出た際にも、大きな騒ぎにはなりませんでした。銃規制や、南部特有の「正当防衛を擁護」する法制度への批判はありましたが、人種の分断というような現象には至りませんでした。
オバマ大統領について言えば、こうした「人種の分断」を回避するための努力を見せたこともありました。例えば、2009年7月ボストンの「ハーバード教授誤認逮捕事件」がいい例です。ハーバード大学の黒人の教授が、出張から戻って自宅のカギを開けようとしてトラブルになっていたところ、パトロール中の白人警官が「侵入盗」と誤認して逮捕してしまった事件への対応がいい例です。
オバマは、当事者、つまり黒人の教授と白人の警官をホワイトハウスに呼んで、「仲直りのためにビールで乾杯」という演出をしたのです。つまり「こうした誤解を一つ一つ乗り越えて、多くの人種が共存する社会にしよう」というメッセージを発信したというわけです。
オバマとしては、就任前に自伝などで訴えていたように、自分の存在自体がアメリカン・ドリームであるということ、そして自分が大統領になることが「人種間の和解」を促すということを、自分でも信じ、そして広く国民に訴えてきたわけです。
ですが、今回の事件は「オバマという黒人大統領」を実現させたからといって、そのオバマの下でもアメリカの社会には、人種間の対立が根深く残っていることを露呈してしまいました。そこには、6年目を迎えたオバマ政権の求心力が落ちたということもあるでしょう。大統領が黒人であることが、かえって「この種の問題に介入しにくく」しているという問題が作用しているかもしれません。
今回の事件の場合、お互いが強い「被害者意識」を持っているということが、問題を深刻にしています。黒人コミュニティの側は、白人警官が「黒人イコール暴力的」という恐怖心から事件を起こしたのなら、それ自体が「悪質な差別」であり、自分たち全員が被害者だという強い感情と確信を持っています。
一方で警官を支持するグループ、そしておそらくは問題の警官の周囲は「こうした問題が起きると、常に白人は差別する側、つまり悪だという決め付けを受けるが、これにはもう我慢がならない」という、こちらも被害の感覚、そして強い怒りを持っていると思われます。
暴動自体が収束に向かう一方、社会の関心は「大陪審」に向かっています。こちらの方は審理が始まっているようですが、厳重な箝口令が敷かれる中、判事サイドからは「相当に時間をかける」というコメントが出ています。簡単には起訴・不起訴の決定には至らないようです。
仮にブラウン氏が、相手が正当防衛をしなくてはならないほどの、あるいは警察の行動規程において発砲されても仕方がないほどの暴力を行使していた、そのような可能性があるにしても、一旦は警官のウィルソンを起訴して、透明性の確保された法廷で検察と弁護人による真相解明と情報公開を行うことは必要だと思います。
しかしミズーリ州の警察の内部規程を見ると、全く事件性を問われない、つまり不起訴になる可能性もあるようで、仮にそうなった場合には、改めて人種間の対立、あるいは社会的な分裂が起きる可能性もゼロではないと思います。
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