「9・11」から13周年、その前夜にシリア空爆を発表したオバマ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年9月11日 12時39分
ISISは、モスルのキリスト教徒を迫害、クルド人のヤジーディー教徒を迫害、更にはアメリカ人のジャーナリスト2名の「斬首」動画を公開するなど、激しくオバマ政権を挑発し続けました。ここへ来て、オバマは「反撃しなければ、アメリカを守れない弱腰大統領」だという批判を、野党・共和党からのプレッシャーとして強く受けることになったのです。
ですが、イラク戦争終結を公約に掲げたオバマとしては、イラクの地では地上軍は動かせません。またアメリカの特にオバマ支持の世論も「イラク戦争に反対したからオバマに投票した」という意識が強く、イラクでの自国軍の再投入には強く反対しています。そんな状況でイラク領内での空爆は既に開始しているわけですが、米国人2名の「斬首」は、この空爆への「報復だ」としてISISは更に挑発を強めてきました。
要するに国外からはISISの残虐行為による挑発、国内からは「お前は弱腰だ。弱腰だと国内テロの標的にもなるぞ」という保守派からの挑発、この双方に追い詰められるようにして、オバマは「9・11の13周年」その「前夜」にシリア領内への空爆を発表したことになります。
今回のシリア領内への空爆ですが、要するにISISはイラクに侵攻しているものの、シリア領内の軍事拠点を叩かなくてはダメだという、おそらくはCIAそして軍の提言を受けたもののようです。
ではこのオバマの作戦は「うまく行く」でしょうか?
私はかなり怪しいと思います。まずISISの側は、こうしたアメリカの動きは計算済みであるか、むしろ狙っていて挑発を繰り返してきたと考えられるからです。ということは、ISISの施設だと思って空爆したら、民間施設であって結果的に誤爆で民間人が犠牲になってアメリカの評価が下がるとか、あるいはアメリカがシリア内で「反アサド、反アルカイダ、反ISIS」のグループを支援しようとすると、先回りして残虐な暴力をそのグループに加えるなどの罠は既にセットされている可能性があります。
アメリカは、湾岸諸国、例えばサウジとかUAE、そしてヨルダンやトルコとの結束で対処するとしていますが、何よりも大切なのはイラクの新政権の安定、そしてイランとの関係の一層の改善だと思います。そちらが動揺するようですと、更にISISには反抗のエネルギーが集まってきてしまうからです。
では、オバマとしては今回の決定から「逃げる」ことができたかと言えば、それは「ノー」でしょう。しかしこれは積極的な決定というより、「状況に流された受け身の」決定だったことは明らかです。
このままですと、オバマ政権は「当座の次の一手」を間違えないようにフラフラしながら、多くの批判を浴びつつ大破綻を避けながら任期を全うできれば上々、そんな状態を続けるしかなさそうです。ですが、そうではあっても残りの2年をどう乗り切るかということは、「次の時代」を大きく左右するのは間違いありません。
その先に来るものが、ヒラリーの「タカ派リベラル」的な新機軸なのか、あるいは共和党の、例えばランド・ポールのような強めの孤立主義になるのか、それはやはり、今回の中東問題を含むオバマの政策の「結果」が大きく影響することになります。
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