成熟国家日本からなぜ「イスラム国」に参加したいのか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年10月9日 11時30分
今回のバカバカしい事件、72年の血なまぐさい事件を考えると、この「社説」には何となく納得させられそうになります。60年代末に学生運動が発生したのは、東大医学部や日大の組織が前近代的だったことや、ベトナム戦争に対して当時の佐藤政権が間接的に協力していたことへの怒りがあったわけです。そうした怒りが、問題の発端であるならば、その原因から「絶たねばダメ」というわけです。
現在の日本で、あるいは欧米の社会で「イスラム国」に興味を持つ人間について言えば、例えば格差の問題であるとか、若者の雇用不安であるとか、あるいは自分の国が「悪い戦争に加担している」という怒りなどが発端になっていて、それが個々の若者を「テロリストになりたい」という心理に追いやっている、そうした解説は可能かもしれません。
ですから、60年代に大学の近代化が進み、ベトナム戦争への間接加担という怒りの元凶がなくなれば、あるいは現在であるならば格差や雇用の問題が解決すれば、テロリストに憧れる若者はなくなる......理屈としてはそういう話になります。
ですが、私はその理屈は違うと思います。2点申し上げたいと思います。
1つは、仮に自分の国の国内問題に悩んだり、国内の不公正に対して怒ったりしているのなら、その人間はその問題そのものと戦うべきです。親子の確執があるのなら、決別するか和解するまで徹底的に向き合うべきです。終身雇用制が自分の敵であるのなら、自身の実力を磨いて徹底的に上の世代を追い越すべきです。格差があって、そこに社会的不公正があるのならメディアや選挙制度を使って告発し続けるべきです。
もちろん、一人一人に出来ることには限界もあるでしょう。実際に社会の問題と対決するためには、その前に自分が一人の市民として生活できるだけの自立をしなくてはなりません。ですが、そうしたプロセスを経ないでは、この世の中は変わらないし、自分も社会も前へ進むことはできません。
なぜ自分自身の属しているコミュニティの問題、つまり自分自身の問題ではなく、どうして「自分とは無関係の中東」に行きたがるのでしょう?
もう1つの問題はそこにあります。現代の先進国社会が抱える問題は、人口動態にしても格差にしても、大変に複雑な利害で成り立っています。それを単純な理念によって再分配することはもはや不可能であり、複雑に錯綜した利害対立を、丁寧に解きほぐしながら、できるだけ中長期の視点で最適解を見出し、その最適解に社会的合意を近づけていくという大変な作業が必要です。為政者や官僚だけでなく、そうした社会に生きる一人一人もまた「複雑系の中での最適解」を求める生き方が必要なのです。
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