クルド要衝を「放棄」するオバマのばかげた理屈
ニューズウィーク日本版 / 2014年10月24日 12時40分
シリアとトルコの国境地帯で激烈を極める攻防戦が続いている。イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)はシリア北部の拠点から国境地帯まで進撃、人口40万人のクルド人の都市アインアルアラブ(クルド名コバニ)陥落を目指している。
ISISがコバニ全域を掌握するのは時間の問題と思われる。この町を守るクルド人部隊は、戦車や重火器を保有するISISの猛攻に長く持ちこたえられそうにない。既にISISは市内の一部地域に侵入、占領の証しとして黒い旗を掲げている。
米政府の当初の反応は鈍かった。オバマ政権の高官はコバニ陥落はアメリカにとって重大な問題ではないといった口ぶりで、切迫感を薄めようとした。
米軍がコバニを重視すれば、典型的な「ミッション・クリープ(終わりの見えない展開)」になるとの議論もあった。それはオバマ大統領の戦争計画から外れた行動で、当初の目標を超えて作戦が拡大され、際限なく人的・物的資源を投入せざるを得ない状況になる、というのだ。
こうした議論はばかげている。コバニ防衛はオバマが全力を挙げて勝ちにいくべき戦いだ。好むと好まざるとにかかわらず、これはオバマが選んだ戦いだ。
8月にISISを標的にした第1波の空爆に踏み切った時点から、オバマはおおむね人道的な理由で攻撃を決断したと語っていた。8月7日の演説ではISISがクルド人系少数派のヤジディ教徒を「虐殺する可能性」があり、アメリカにはそれを防ぐ責任があると宣言。9月に全米で放映された演説と国連総会で行った演説でも、人道的な理由でISISと戦うと説明した。
空爆の拡大を発表した9月10日の演説では、オバマはイラクとシリアのISISを「弱体化させ、壊滅する」ことが目標だと明言した。以後、米軍主導の有志連合がイラクとシリアで何波にも及ぶ攻撃を行ってきた。
遅きに失した空爆指令
こうした空爆の目的は、明らかにコバニで起きている事態にも当てはまる。数十万人のクルド人、キリスト教徒、さらにはスンニ派の住民などが、ISISの残虐な支配から逃れてコバニに入り込んでいた。そのコバニからの大脱出は既に最大級の難民危機になっているとも警告されている。
コバニが陥落すれば、市内に残った人々はどうなるか。ISISは大量処刑やレイプ・拷問など、今までに行ってきた以上に残虐な扱いをするだろう。そうした事態を予測して、国連幹部ですらコバニ防衛のための武力行使を呼び掛けているほどだ。
-
- 1
- 2
この記事に関連するニュース
-
レバノンでまた通信機同時爆発、民家やカフェも無差別の「恐怖と戦慄」
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月19日 15時56分
-
崩れた信頼の再構築...イスラエル軍が挑むガザ戦争の「真の意味」
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月10日 14時40分
-
イスラエル・ヒズボラの交戦激化、第2局面でイランはどう出る?
ニューズウィーク日本版 / 2024年9月3日 14時20分
-
ロシア領侵攻で高まる世界戦争への発展可能性 ウクライナ戦争はスラブ人同士の問題だ
東洋経済オンライン / 2024年8月27日 11時0分
-
ロシア国内クルスク州でウクライナ軍がHIMARS爆撃...クラスター弾が「補給路」を完全破壊する映像
ニューズウィーク日本版 / 2024年8月23日 18時38分
ランキング
-
1機内食からネズミ、スカンジナビア航空機が緊急着陸
AFPBB News / 2024年9月21日 12時0分
-
2「レバノン国家内の国家」ヒズボラ ハマス超え軍事力、衝突拡大ならイスラエルも甚大被害
産経ニュース / 2024年9月21日 17時57分
-
3レバノンのポケベル&トランシーバー連続爆発事件 イスラエル情報機関、火薬埋め込みか
産経ニュース / 2024年9月21日 17時4分
-
4ウクライナ、ロシアの弾薬庫攻撃 火災発生、一つは「兵たんの鍵」
共同通信 / 2024年9月22日 9時7分
-
5中国メディア、深圳男児殺害犯は「反社会分子」で「愛国」とは無関係強調 政府批判警戒か
産経ニュース / 2024年9月21日 17時47分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください