消費税の増税先送りで増幅される「政治的な景気循環」 - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年11月12日 18時57分
選挙が近づくと財政出動と金融政策でインフレになり、選挙が終わると引き締めで不況になる現象を政治的な景気循環と呼ぶが、政治日程は景気循環の波と一致しないので、かえって循環を増幅することが多い。最近では「エコポイント」がその例で、リーマン・ショックのあと電機製品に補助金を出したが、打ち切られると電機メーカーが経営危機に直面した。安倍首相の先送り政策も、不況を増幅するおそれが強い。
このように増税延期の景気への効果は疑問だが、確実に起こるのは財政赤字の膨張である。来年度予算は年度後半の増税を見込んで編成されているが、それが延期されると予算を減額するか国債を増発するしかない。追加緩和は増税が前提で、黒田総裁も「増税を延期したら責任はもてない」といっている。
「今は景気が悪いから増税を延期する」という前例をつくったら、増税は際限なく先送りされるだろう。第2次大戦後に、日本と同じようにGDPの2倍を超える政府債務を抱えたイギリスは、金利を規制して人為的にインフレにする「金融抑圧」で債務を減らしたが、所得税率は最高83%に達し、消費税率は20%でも足りなくなった。1970年代には高率のインフレで金利が20%まで上昇し、経済が崩壊した。
日本経済も、同じ「英国病」の道を歩んでいる。いやなことを先送りし、目先の景気対策で再選をねらうのは民主政治の常だが、先送りされた負担と荒廃した経済を引き継ぐのは次の世代である。増税延期は世代間の戦争だが、若い世代に勝ち目はない。日本の投票者の年齢の中央値は60歳を超えているからだ。
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