ノーラン監督『インターステラー』は世代を超えるか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2014年11月21日 11時49分
1つの可能性としては、IMAXと4Kのフォーマットの違いがあるのかもしれません。IMAXはドット数もコマ数も、そして音響のクオリティも4Kよりかなり上のスペックですから、本作のように絵も音も意識して作り込んだ作品の場合は、相当な印象の差になるのかもしれません。
ですが、私としては絵も音も4Kで十分に楽しんだと思うのです。フォーマットの違いが評価の差になるほどではないと言えます。では、あの若者たちの熱気は何だったのでしょう? ネットにあふれる「星4つ」という最高の評価は、どう説明したらいいのでしょう?
そこには世代の問題があるように思います。
私のように、それこそ60年代に「アポロ計画」が実現されていくプロセスを同時代の経験として記憶している世代、そしてキューブリック監督の『2001年宇宙の旅』をある種の原体験として持っている世代には、この『インターステラー』は既視感がありすぎるのです。
ですが、ノーラン監督のコアのファン層である、80~90年代生まれの若い世代には、アポロははるか昔の歴史であり、『2001年宇宙の旅』の原体験も持っていません。そうした世代には、この『インターステラー』が描き出す、宇宙空間を舞台にした時空を超えた世界観の話は、極めて新鮮な経験になるのでしょう。
アメリカの若者の間には「60年代の再評価」というべき現象があります。ビートルズのリバイバル的な人気は大変なものですし、例えば「ウォール街占拠デモ」とか、アップル社などIT企業の「ヒッピー文化的なカルチャー」などにも、60年代のニュアンスが感じられます。そうした延長上に「宇宙への関心」というものも、説明できるように思うのです。
もちろん、現在のアメリカは巨額のカネを投じて宇宙開発を再開するような状態にはありません。ですが、意識の問題として、平凡な日常性を離れて宇宙空間に思いを寄せ、人類として地球を超えたフロンティアに夢を追う、60年代には濃厚にあったそんな感覚が、今の20代、30代の若者たちにも共有されていると思います。
そう考えるとこの『インターステラー』は、まさに古典となった過去のSF作品群、そして歴史となったアポロ計画に対するオマージュを織り込みながら、新しい世代の中にある宇宙への「意識の拡大」を受け止め、世代と世代を結びつけていくという役割を持った作品なのかもしれません。
主演のマシュー・マコナヒー(『コンタクト』にも出ていました)の演技はブリリアントですし、父と娘のエピソード(これも『コンタクト』に重なってきます)は感動的です。また『2001年』へのオマージュとしては、宇宙船とステーションの「ドッキングのシーン」が非常に興味深かったことも指摘しておきたいと思います。一見の価値のある作品であることは間違いありません。
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