暴力が止まらないメキシコと疑惑の大統領
ニューズウィーク日本版 / 2014年12月5日 12時31分
ゲレロ州イグアラで教員養成大学の学生43人がバスでの帰路に警察から襲撃を受け、行方不明になってから2カ月が過ぎた。事件への抗議デモは蔓延する暴力や政治腐敗に対する国民の反発も巻き込み、メキシコ全土を揺るがす事態へと発展。業を煮やしたメキシコ政府は、ついに司法システムの抜本的改革に踏み切ると宣言した。
ペニャ・ニエト大統領は政権に就いた2年前、メキシコの凶悪犯罪を食い止め、安定化を図ると約束した。大統領選の際には、こう宣言していた。「暴力を減らすため、効果的な政策に着手する。殺人、誘拐、恐喝をこれ以上許さない」
だが統計を見れば、目標達成に程遠い状況は明らか。都市部の住民はペニャ・ニエトのリーダーシップに対する不満を日々募らせている。
メキシコでは14年上半期、殺人率が12年の同期比で29%低下したが、その他の犯罪は増加している。13年には誘拐や脅迫、路上強盗が前年より多発した。
政治的意図に基づく不正も多い。人権団体コミテ・セレソ・メヒコの報告によれば、前カルデロン政権下で政治的な理由で拘束されたのは6年間で999人だったのに対し、ペニャ・ニエトの任期がスタートしてからの1年半では既に669人が拘束されている。「もはや現大統領のやることに我慢ならない」と、21歳の大学生サエブリ・アレジャーノは政権批判のプラカードを掲げて言う。
そんななか、ペニャ・ニエトと妻アンヘリカ・リベラに新たな疑惑が浮上した。ペニャ・ニエトのメキシコ州知事時代に数件の公共工事を請け負った企業から、夫妻が700万ドルの豪邸を購入していたことが発覚したのだ。この企業を含む中国の企業連合は、37億ドル規模の高速鉄道の建設プロジェクトで国の契約を勝ち取っていた。
リベラは、住宅を自分の資金で購入しており癒着などの不正はないと反論。ペニャ・ニエトに至っては、報道機関がデモに乗じて混乱をあおっているとの趣旨の発言までしている。
人権団体の代表を務めるフェルナンド・リオスは、約束した変革に大統領は今こそ取り組むべきだと言う。「今ならメキシコに正義と真実をもたらす政治的チャンスが残されている」
この機を逃せば、ペニャ・ニエトにもメキシコにも、不信と腐敗が付きまとい続けるだろう。
[2014.12. 9号掲載]
マリア・ガルーチ
この記事に関連するニュース
-
バイデン大統領は「ゲシュタポ政権」運営、トランプ氏が非難
ロイター / 2024年5月6日 15時10分
-
エクアドルはなぜウィーン条約違反の暴挙に出たのか メキシコ大使館突入事件の背景
Japan In-depth / 2024年5月2日 11時0分
-
ガザ攻撃巡りICCが逮捕状発付の観測 米は支持せず「管轄権はない」
産経ニュース / 2024年4月30日 17時26分
-
米国務省、2023年人権報告書を公表、イスラエルとハマスの衝突は「人権に関する深刻な懸念」(米国、イスラエル、イラン、ロシア、ウクライナ、スーダン、中国、日本)
ジェトロ・ビジネス短信 / 2024年4月23日 13時40分
-
アングル:不倫口止め事件裁判、トランプ氏選挙戦に追い風の理由
ロイター / 2024年4月17日 11時47分
ランキング
-
1ロシア戦術核兵器の演習計画、プーチン氏「異例ではない」
ロイター / 2024年5月9日 20時18分
-
2「交渉でのイスラエルの立場を損ねた」イスラエル軍のラジオ局 バイデン大統領の“武器供与停止”示唆受け
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月9日 23時49分
-
3台湾・頼清徳次期総統「台湾有事は日本有事」に「独立を図るものだ」と中国反発
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月9日 18時23分
-
4イスラエル首相、強硬姿勢崩さず 休戦交渉不調に終わる
ロイター / 2024年5月10日 7時31分
-
5中国・習主席がハンガリーでシュヨク大統領と会談「関係は史上最高の状態」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月9日 22時21分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください