ウクライナ紛争の勝者はどこに?(前編)
ニューズウィーク日本版 / 2014年12月22日 12時40分
その結果、2つの重大な変化が起きた。まずはウクライナの自立だ。ソ連から独立して23年、ウクライナはどっちつかずの立場にいた。隣国ポーランドのようにヨーロッパ的な法治国家になって商売に励むのか、ベラルーシやカザフスタンのように国民を搾取する独裁国になり、よみがえったロシア帝国に加わるのか。どちらも選ぶことができずにいた。
この選択に答えを出したのはロシアのウラジーミル・プーチン大統領だ。ロシア語圏のクリミア、ドネツク、ルガンスクが実質的に離脱したウクライナに、もはや親ロシアの政権が復活する可能性はない。10月末の総選挙では親欧米の政党が圧勝した。EUとNATO(北大西洋条約機構)はロシアへの制裁とウクライナへの経済的・軍事的支援で(少なくとも今のところは)足並みをそろえている。
東部で続く戦闘。経済不振。武装した「愛国的民兵団」を組織する国粋主義者たち──ウクライナが抱える問題の複雑さを思うと、ユーゴスラビアの二の舞いかという思いがよぎる。しかし大半の国民は希望を失っていない。
「私たちの真の姿が分かった。偽りの姿も」と言ったのは若い歌手のルスラナ・ハジポワ。「私たちは自由になった。もうロシアの手下じゃない」
もう1つの変化はより深刻なもので、世界的な惨事につながる可能性をはらんでいる。ロシアがウクライナ危機によって根本的に変化したという事実だ。ロシアはわずか数カ月で、冷戦時よりさらに邪悪な姿に戻ってしまった。
ハリー・ポッターを愛した兵士を後に、私たちの車は農業地帯を抜けて走った。ドン川の流域は豊かな穀倉地帯だ。
次の検問所はドネツク人民共和国の「独立」を声高に主張していた。黒、青、赤の3色をあしらった国旗は、帝政ロシアが革命で崩壊した1918年に独立を宣言したつかの間のドネツク・クリボログ共和国の旗にちなんでいる。
ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国が結成したノボロシア(新ロシア)人民共和国連邦の新しい旗もある。デザインはアメリカの南北戦争時代の南部連合旗に似ている。
ボタ山や炭田の縦穴坑道の掘削装置が点在する平坦な土地を過ぎると、いよいよドネツク市だ。市内は不気味なほど人の気配がない。戦争の前は人口100万を超える豊かな都市だったのに。大通りの巨大な看板には4月のコンサートの広告が貼ったままで、はがれかかっていた。
建前上、今は停戦中のはずだが、砲撃は続いていた。ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領が停戦協定に署名したのは9月中旬のことだった。
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