日銀の「ゆるやかな金融抑圧」がスタグフレーションを招く - 池田信夫 エコノMIX異論正論
ニューズウィーク日本版 / 2014年12月24日 17時47分
第二に、戦後のイギリスとは違って今の日本では金利が自由化され、国際資本移動も自由なので、金利やインフレ率をコントロールすることは困難だ。特にゼロ金利では日銀がいくらマネタリーベース(資金残高)を増やしてもインフレにならない。今は長期国債の実質金利が-0.5%ぐらいだが、この程度では金融抑圧の効果はない。
ピケティの推奨する4%のインフレを起こせば、10年ぐらいで政府債務は半減する。インフレを起こすだけなら簡単だ。日銀が原油などの市況商品を買い占めればインフレは起こるが、海外への資本逃避が起こって金利が上昇し、それがさらに物価上昇を招く高率の(コントロールできない)インフレになるおそれが強い。
さすがの黒田日銀総裁もそこまで冒険はできないので、今の「ゆるやかな金融抑圧」が今後も続くだろう。しかし原油価格の暴落でインフレ率は1%を割り込み、ゼロに近づいてきた。これでは政府債務を削減する効果はなく、金融市場の機能が麻痺して日本経済が停滞するだけだ。
他方、アメリカでは景気回復にともなって金利が上がり始めた。「異次元緩和」も無限に続けることはできないので、日銀もいずれ出口政策(ゼロ金利の解除)を取らざるをえない。そのとき何が起こるだろうか?
上の図でおもしろいのは、1970年代以降、イギリス政府が「ゆりかごから墓場まで」の福祉政策を取って財政赤字が膨張したときも、政府債務比率が下がったことだ。これは石油危機で25%近いインフレになり、ふたたびマイナス金利になったためだ。このときは金利が自由化されていたので、長期金利も最高15%という大混乱になった。
このようにイギリスはインフレと不況の共存するスタグフレーションに陥り、経済はボロボロになり、ヨーロッパの最貧国になった。日本が学ぶべきなのは終戦直後のイギリスではなく、70年代の「英国病」の教訓だろう。
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