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石油危機とテロ拡大を招くイエメン政局の混迷

ニューズウィーク日本版 / 2015年1月30日 12時6分

 イスラム教シーア派武装組織ホーシー派によるクーデターでハディ大統領が辞任し、首相以下内閣も総辞職するなど混迷を極めるイエメン──。
 
 窮地にあるのは首都サヌアの政府や治安だけではない。ホーシー派の支配が全国に拡大すれば、世界の石油供給に悪影響を及ぼし、テロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の勢力拡大につながる可能性がある。

 イエメン政府はこれまで、石油タンカーが地中海からインド洋に抜ける際に通過するバベルマンデブ海峡の往来を支配下に置いてきた。ホーシー派のクーデターは、中央政府によるこの海域の支配と石油の安定供給を脅かすものにほかならない。

 米エネルギー情報局(EIA)によれば、バベルマンデブ海峡を経由する物品は世界貿易の約8%を占める。なかでも原油と石油製品は世界の約4%を占め、その比率は年々増加している。

 内戦状態が長引き、バベルマンデブ海峡が封鎖となれば、石油タンカーは地中海と紅海を結ぶエジプトのパイプラインやスエズ運河に到達できなくなる。

 つまり、ヨーロッパや中東・北アフリカからアジア市場に最短で石油を輸送する経路が閉ざされる。タンカーは石油の輸送のためにアフリカ大陸の南端を回ることになり、輸送時間と費用が増大する。

 イエメンの財政にとっても、バベルマンデブ海峡を封鎖する経済的余裕などない。アラビア半島の最貧国で、国民1人当たりのGDPがサウジアラビアの20分の1以下というこの国の命綱は石油の輸出だ。しかし国家予算の約70%を占める石油・ガス収入も、最近の治安の悪化が原因で落ち込んでいる。

 さらに今回のクーデターではホーシー派が首都の支配力を拡大し、主要なイエメン軍基地を占拠したため、政府は先週、要衝であるアデン港とサヌアに通じる道路を封鎖した。これでイエメン経済はさらなる危機に瀕するだろう。



宗派戦争も避けられない

 一方、ハディ大統領辞任後のホーシー派による実効支配は、政府軍の力を弱体化させ、イエメンを拠点とするAQAPには追い風となりそうだ。

 スンニ派武装勢力のAQAPは、アルカイダ系テロ組織の中で最も危険だと言われる。AQAPは、1月に起きたフランスの風刺週刊紙シャルリ・エブド襲撃事件について犯行声明も出している。

 その過激さからAQAPはイエメン国内で支持を得られていない。しかしシーア派であるホーシー派の台頭は、同国の多数派であるスンニ派にとって直接の脅威となる。スンニ派部族は消去法でAQAP支持に回らざるを得ないかもしれないと、中東の専門家たちは指摘する。シーア派支配に立ち向かうことができる唯一の勢力がAQAPだからだ。

 ホーシー派とイエメン軍は長年、対AQAPで共闘してきた。だが首都の危機と分裂は、AQAPと戦う政府軍の力を弱体化させるだろう。政権が総辞職した今となっては、今後イエメン政府がAQAPの脅威にどうやって対処していくのか不透明な状況だ。

 1つだけ明らかなのは、今後ホーシー派とAQAPが共に勢力を伸ばし、泥沼の宗派戦争に陥る可能性が高くなったということだ。

 AQAPの伸長は、テロを警戒する欧米諸国にとっても人ごとではなくなるだろう。

[2015.2. 3号掲載]
エリン・バンコ、ローラ・モフター

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