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人質殺害事件に寄せて - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年2月1日 14時21分

 そのような立場にあるイスラーム教徒に対する共感が、メディアからは感じられない。9.11事件のときに、テロの被害にあった米国民に対して多くのイスラーム圏の人々が、「これでアメリカも日々テロや暴力の危険にさらされている私たちの悲しみをわかってくれるかもしれない」と感じた。だが、その結果行われたことは、イスラーム教全体がテロの源泉であるかのように行われた「テロとの戦い」だった。

 人質事件の一週間前に起きたパリのシャルリー・エブド誌襲撃事件では、テロの犠牲者であることは中東のイスラーム教徒も同じ、として中東諸国からも多くの連帯が呼びかけられた。だが、事件後ヨーロッパでは、極右の移民排斥の主張が高まり、イスラーム教徒に対する嫌がらせが頻発した。イギリスのラジオ番組では、テロ犯がやったことをイスラーム教徒に謝らせろ、といったコメントが寄せられた。(このときのキャスターの対応が秀逸だったと、英メディアで注目された。キャスター曰く「じゃあ、犯人がリチャードっていう名前だったら、リチャードっていう名前の君も謝らなきゃならないのか?」)

 「イスラーム国」登場以降、MuslimApologiesというハッシュタグが立ち上がっている。そのこと自体が、一介のテロリストが行った行為がイスラーム教徒全体の責任だと見なされることへの、イスラーム社会の憤懣を示している。後藤さんが命を懸けて伝えたかったことが、「イスラーム国を含めたさまざまな暴力の被害者である現地のイスラーム教徒の苦しみ」だったとすれば、その遺志を正確に伝えることこそがメディアの使命なのではないかと思う。ご冥福をお祈りします。

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