日本の「テロ対策」8つの疑問 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年2月12日 12時51分
イスラムテロ組織「ISIL」の日本人人質殺害事件を受けて、日本のテロ対策のあり方が議論されていますが、安倍政権の反応、それに対する批判ともにちぐはぐな印象を拭えません。一連の議論で浮かんだ疑問を整理してみました。
(1)アメリカ人女性ボランティアの殺害が確認されたことを受けて、安倍首相は「深い悲しみに包まれている」と述べ、アメリカに「連帯を表明」しています。一方で日本人人質の殺害に対して政権や与党からは、「痛恨の極み」、「強い怒り」という事件への感想が先行し、死者に対して「蛮勇」だという非難も浴びせられました。今回の悲劇に際しては、何よりも自国の死者や遺族への最高の礼節を示すのが「為政者の常識」だと思うのですが、そうした考え方は古いのでしょうか?
(2)その背景には「自己責任で危険を冒した」人間のために「国策」が左右されるのは「迷惑だ」という発想があるように見えます。ですが、仮に「迷惑」で「自己責任」だと考えるのなら、大げさに問題化せずに最低限の対応をすればいいはずです。それが、どうして「今回の事件を契機に憲法9条の改正を」という話になるのでしょうか?
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(3)そもそも憲法を改正して正規軍を保持し、海外派兵をする可能性を大きく広げれば、この種の人質事件の際に何か有効なことがあるのでしょうか? 特殊部隊を養成して救出作戦を行うにしても、養成には時間がかかります。作戦のベースとなる諜報の収集と分析にはそれ以上の手間がかかります。それ以前の話として、この種の事件に関する「救出作戦」に関しては歴史的に不可能とされており、イスラエル軍による1967年のエンテベ空港奇襲作戦以外には目立った成功事例はありません。今回死亡が確認された、アメリカのカイラ・ミューラーさん他に関しても、オバマ大統領が指示して昨年8月に救出作戦が実行されましたが、失敗しているそうです。
(4)そうなると、事件と憲法問題を結びつけるのは極めて政治的という解釈ができそうです。ですが、仮にそうだからと言って、政権批判に熱心になる側の主張にある「人道支援を宣言したので危険が増大した」というロジックになると、まるで「難民を見捨ててもいい」ように聞こえます。中には、テロ集団を国家に準ずる存在として認めようという意見もあるようです。そんな無理な理屈に行かないと、踏ん張って政権批判ができないというのであれば、日本の安全を脅かしているのは外敵でもテロ集団でもなく、国内のイデオロギー分裂であるようにも思えます。もう少しお互いに真ん中へ歩み寄れないものでしょうか?
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