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使用ずみ核燃料の問題解決を阻む「11兆円の不良資産」 - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2015年2月19日 16時39分

 再処理のメリットは、しいていえば核廃棄物の体積が小さくなることだが、その代わり核兵器に適したプルトニウムを年間8トン(長崎型原爆1000発以上)もつくるリスクは大きい。プルトニウムをウランに混ぜるMOX燃料も製造コストが高く、プルトニウムが無料でも採算にあわない。

 原子力委員会も「直接処分のオプションを検討すべきだ」と勧告してきたが、経産省は、全量再処理の原則を崩さない。来年度から「直接処分の調査研究」を始めることになったが、使用ずみ核燃料のままの最終処分はしない方針だ。どうせ捨てるなら再処理しないで燃料棒のまま捨てればいいのだが、そうすると「再処理工場の採算があわなくなる」という。

 再処理工場を運営する日本原燃の11兆円以上の事業費は、今は電力各社の資産に計上されている。使用ずみ燃料が再利用できる資産だということになっているからだが、再処理をやめるとこれがすべて「核のゴミ」になり、原燃の経営が破綻する。

 経産省も電力会社も、これをいやがっているのだが、これは錯覚である。過去にいくら投資しても、回収不能なサンクコストは考えてはいけないのだ。大事なのは今後のキャッシュフローだけだ。再処理は営利事業なので、採算の取れない事業を延命することは経営的にもマイナスなのだ。

 再処理工場は何も価値を生み出せないので、使用ずみ核燃料はサンクコストである。経産省もこれを認め、2015年度からは原燃の事業費を各電力会社の「拠出金」として費用に計上できるように法律を改正する。

 最終処分の問題は処分場の選定が困難だということだが、これは六ヶ所村を最終処分場にすれば解決する。土地は大阪市とほぼ同じ250平方キロの面積があり、300年分の使用ずみ燃料が処分できる。問題は国と青森県の協定で「最終処分場にしない」と約束していることだが、これは国が県と話し合えばよい。これから処分場を公募して立地調査するよりはるかに容易だ。

 むしろ最大の障害は、これまで核燃料サイクルを推進してきた経産省や電力会社の面子がつぶれることだろう。これは1990年代の不良債権問題と同じだ。当時も地価や株価の暴落で銀行が大きな不良資産を抱えたが、それを表面化させることをきらって問題を先送りしているうちに損失がどんどん大きくなった。

 核兵器を保有しない国で核燃料サイクルを推進しているのは、今では日本だけだ。かつては将来の核武装に備える意味もあったかもしれないが、日本はすでに原爆5000発以上のプルトニウムをもっている。少なくとも全量再処理の原則は修正し、直接処分を認めるべきだ。

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