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ゼロリスクを求めるメディアの「情報汚染」が福島の復興をさまたげる - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2015年3月12日 16時44分

 東日本大震災から4年たつが、原発事故の被災地では、まだ9万7000人が仮設住宅で暮らしている。政府は「放射線量が年間20ミリシーベルトまでなら帰宅してよい」という基準を出しているが、いまだに多くの市町村が1ミリまで除染しないと帰宅させない。これには法的根拠も科学的根拠もないが、「1ミリまで除染しろ」という住民の要求が強いためだ。

 被災地に入って現地調査した高田純教授(札幌医科大学)によると、もっとも線量の高い「帰還困難区域」とされる浪江町でも年間7~8ミリシーベルト程度だという。健康に影響が出るのは100ミリ以上だから、すべての地域で帰宅できるが、政府は追跡調査もしないで、避難指示解除準備区域(20ミリシーベルト以下)、居住制限区域(20~50ミリ)、帰還困難区域(50ミリ以上)と区分した地域指定を見直さない。

 福島第一原発の廃炉作業も進展しない。膨大な汚染水の処理に、ほとんどの人手が取られているからだ。先日は2号機から基準を上回る汚染水が湾外に出ていることが問題になったが、これはピーク値で、平均するとセシウム濃度は湾内でも3~7ベクレル/リットルと、飲料水の水質基準を下回る。

 ところが政府が明確な基準を示さないため、原発では毎日7000人の作業員が地下水を取水してポンプに移し替えている。それを貯水するタンクは80万トンにのぼり、作業でタンクから落下した作業員が死亡する事故も起こった。

 原子力規制委員会の田中俊一委員長は「健康に影響のない水処理で死者が出るのは本末転倒だ。薄めて海に流せばよい」と指摘したが、東京電力は「当社には決められない」という。事故を起こした加害者として自粛するのはやむをえないが、そのコストは電力利用者や納税者が負担する結果になる。

 被災地はもう元に戻っている。その復旧をさまたげている最大の原因は、こうしたメディアによる情報汚染である。「原発事故で鼻血が出る」といった非科学的な情報がいまだに流され、甲状腺癌の検査結果についても、統計学を無視して恐怖をあおる報道が絶えない。

 1986年のチェルノブイリ原発事故では、大量の放射性物質がヨーロッパまで降り注いだが、国連の調査によれば、こうした落下物で増えた死者は(汚染された牛乳を飲んだ)10人程度だ。チェルノブイリの0.1%以下しか放射性物質の出なかった福島で、死者が出ることは考えられない。

 かつて放射能の脅威は原爆と混同されたが、広島や長崎の被爆者のほとんどは熱で死んだのであり、放射線障害で死んだ人は少ない。1954年にビキニ環礁の核実験の「死の灰」で死んだとされる第五福竜丸の船員の死因も、輸血による肝機能障害だったことが放射線医学総合研究所の追跡調査で確認されている。

 しかし人々の脳裡に焼き付けられた放射能=原爆=大量死というイメージは消えない。それを政治的に利用してゼロリスクを求める人々が騒ぎ続け、こういうデマに反論する人を「人命軽視だ」とか「御用学者だ」などと攻撃して商売する自称ジャーナリストも後を絶たない。

 もっとも責任が重いのは、こういう情報汚染に対応しない安倍政権である。いまメディアが騒いでいる除染や汚染水の問題は、環境基準と無関係なのだから、政府が「ゼロリスクを求めない」と宣言し、法にもとづいて処理することを市町村に徹底すれば解決できる。もう自粛をやめて、日常生活に戻るときだ。

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