プーチンは「狂人」か、策士か
ニューズウィーク日本版 / 2015年4月27日 12時3分
CIAは指導者の性格診断を今でも続けている。「ただしCIA情報部の活動の一環として、政治・経済・軍事面の分析と並行して実施している」と、トッド・エビッツ報道官は言う。
今のプーチンの心理状態をCIAはどうみるか。回答は得られなかった。しかし性格・政治行動分析センターを創設し、長らく所長を務めたジョージ・ワシントン大学のジェロルド・ポスト教授(政治心理学)の見立てはこうだ。
「プーチンは自身を現代版ロシア皇帝と見なし、ロシア語圏の全人民に対して責任を持つと考えている。だがプーチンにとって最も大切なのは、人民ではなく自分自身だ」
ポストに言わせれば、プーチンの「鉄の男」のイメージは、いじめられっ子だった体験の産物だ。「武道を始めたのは、いじめに対抗するためだった。指導者になった今も、彼は同じ行動をしている」。つまり大国の指導者になった今は、武術の代わりに核兵器で身を守ろうとしているということだ。
ロシアの投資ファンド、エルミタージュ・キャピタル・マネジメントを率いていたウィリアム・ブラウダーは、プーチン政権下の05年に国外追放処分を受け、顧問弁護士がロシア国内の刑務所で不審死した経緯もあり、プーチンを見る目は冷たい。
権力を握り始めた頃からプーチンを知るブラウダーによれば、プーチンは「極めて理性的なソシオパス(社会病質者)」だ。ロシアは自分の手中にあると信じていたが、昨年2月にウクライナで親ロシア派のヤヌコビッチ政権が民衆に倒されたことで、考えを変えた。
「プーチンはヤヌコビッチのようになりたくなかった。ただそれだけの理由で、ロシア国民の目を国内からそらすためにクリミアに侵攻した」
大物政治家になれば、国民の現実から乖離しがちだ。「そんな立場になれば誰でも変わる」と、プーチンの元友人は語る。
信じるのは元KGBだけ
だがプーチンは「KGB(国家保安委員会)出身である点が違う」という。「ほかの国家指導者はお決まりの方向に変化するが、プーチンはKGB的に変化している。周りは敵だらけ、頼れるのは同じKGB出身者だけだと疑心暗鬼になっている」
この疑心暗鬼が「狂人ゲーム」の火に油を注ぐ。
「プーチンは頭がおかしいと言うのは簡単だ」と、元友人は話す。「彼のせいで、今や核戦争の危機が取り沙汰されている。だがその一方で、プーチンの行動はどこも異常ではない。権力の座にとどまるためなら何でもする気で、だからこそ、核兵器を脅しに使う発言をしている」
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