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『アドバンスト・スタイル』が教えてくれるもの

ニューズウィーク日本版 / 2015年6月1日 17時5分

彼女たちの物語を聞くことで、自分自身の人生について気付くことがあったり、学ぶことは多い。でも僕は映画を撮る以前から彼女たちと強いつながりがあったから、改めて、というものはないかもしれない。

まあ、新しい発見といえば、それぞれの女性と自分が1対1で接している時と違い、みんなを一緒にすると意外にいろいろな力学が働くんだな、ということ(笑)。

何か問題が起きれば一丸となって立ち上がるし、互いの面倒も見合う。でもみんな自尊心や競争意識があり、健全な虚栄心も持っている。どこかにライバル意識があるのはすごく興味深かった。

年齢に対する差別意識みたいなものが生まれるのは、世代を越えた交流がないからではないか。僕には2人の祖母という素晴らしいロールモデルがいたから、年を取ることを肯定的にしかとらえていない。でも、メディアが年長者を主役として扱うことがないとか、死を連想させるイメージしか発信していないとか、そういう問題はあると思う。

──その素晴らしいロールモデルという祖母たちはどんな人だった?

両親が共働きで忙しかったから、いろんなことを知るきかっけを作ってくれたのは祖母たちだった。特に「クリエイティブなことをしたいならニューヨークに行くべき」と勧めてくれた祖母ブルーマは、僕のバイブルみたいな存在だった。自分が若かった頃の、コンピュータや車がない時代の写真を見せてくれたり、古い映画や音楽を教えてくれたり。図書館の司書をしていたので、一緒に図書館に行って本をたくさん借りたりもした。

もう1人の祖母はすごくおしゃれで、活動的だった。60代になっても毎日何キロも走っていたよ。髪もファッションもばっちりきめて出掛ける人で、サンディエゴでもよく知られた存在だった。僕の服装のスタイルは、その祖母に影響を受けているかもしれない。

僕にとって、祖父母の家は魔法のような場所だった。例えば引き出しを開けると、独特なフォルムをした緑色の60年代のホチキスが出てくる。昔の写真やアンティークの品々はとても魅力的で、そういったものに触れたことが僕の美的感覚を育んだ。またあの家に戻ったら、緑のホチキスを探したいと思う(笑)。

──あなたのブログや写真集、映画を見て、多くの女性は楽しみ、勇気付けられただろう。男性の反応はどうか?

意外なことに、ブログも映画も男性の反応がものすごくいい。「パートナーに誘われて見にきたが、ファッション映画だと思って最初はちょっと敬遠していた。でも女性たちの物語に心を動かされ、そのエネルギーに刺激を受けた。すごく楽しかった」と言ってくれる人が多い。

──映画の中で女性の1人が亡くなるし、近いうちに亡くなる人もいるだろう。

 製作開始から1年ほどたった僕の誕生日に亡くなった。そのときはショックだった。でも、誰もがいつまでも生きられる訳ではないし、そういうこともあると覚悟はしている。僕には、彼女たちと過ごした時間という宝物があるしね。

大橋希


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