ドローン操縦士を襲うPTSD
ニューズウィーク日本版 / 2015年6月19日 17時41分
ドローン(無人攻撃機)に従事する米軍の操縦士たちに、45人の退役軍人が連名で任務放棄を呼び掛けた。
「アフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリア、イラク、そしてフィリピンで、少なくとも6000人の命が不当に奪われた」と、彼らは書簡で主張する。「ドローン攻撃は、国際法違反で人権の原則にも反している」
オバマ米大統領は年頭の一般教書演説で、「ドローンのような新技術の使用は抑制するよう努めてきた」と語った。しかしロンドンに本拠を置く調査報道協会によると、米軍は昨年、様々な局面でドローン攻撃を増加させている。
退役軍人が任務放棄を訴えたのは、米空軍で一日当たりのドローン出撃回数を65回から60回に減らすことが明らかになったから。任務のストレスでドローンの操縦士が減っているのだ。
操縦士は、一日12時間以上も無数のコンピュータースクリーンを睨んで過ごすこともある。ドローンを操縦して数千キロ離れた標的を監視し、攻撃する。元ドローン操縦士のブランドン・ブライアントは本誌の取材に答えて、自分の最初のドローン攻撃についてこう話している。
アフガニスタンのどこかの道を、自動小銃を抱えた男が3人歩いていた。前の2人は何かでもめている様子で、もう1人は少し後ろを歩いていた。彼らが誰なのか、知る由もなかったとブライアントは言う。上官が彼に下した命令は、何でもいいから前の2人を攻撃しろというもの。「1人より2人のほうがいい」からだ。
土煙が収まると、目の前の画面には大きくえぐれた地面が表示されていた。2人の肉体の断片が散らばり、後ろにいた男も右脚の一部を失って地面に倒れていた。「男は血を流し、死にかけていた」。赤外線カメラの映像に白っぽく映る血のりは地面に広がり、冷えていった。「男はやがて動かなくなり、地面と同じ色になった」。
こうした任務の後、ドローン操縦士たちは家路について市民生活に戻る。
毎日人を殺しては牛乳を買って家に帰る異常さ
「毎日、精神的に戦場に派遣するようなものだ。操縦士たちは、基地のゲートをくぐりながら、『よし、自分は戦地に向かう。戦うぞ』と考える。しかし任務後は、基地のゲートを出て、スーパーで牛乳を買い、サッカーの試合に行ってから家に帰る。任務について家庭で話すことはほとんどできない。これらの要因が重なって、操縦士本人と家族の精神的ストレスが強まっていく」と、米空軍のジェームズ・クラフ大佐はニューヨーク・タイムズの取材に語っている。
物理的な危険には晒されていないが、ドローン操縦士が心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのストレス障害にかかる割合は、実際の戦闘機の操縦士と同じだという。
米空軍の広報官は退役軍人からの書簡について、米軍情報誌「ミリタリー・タイムズ」宛てのメールでこうコメントした。
「米空軍のドローンの操縦士は、非常に重要な任務を遂行し、国防に大きく貢献している。彼らはプロフェッショナルで、適用される法律、政策を遵守し、極めて過酷な任務を果たしている」
退役軍人からの手紙は、「ドローンを知れ」というサイトが主催するドローン反対運動の一環だ。
ローレン・ウォーカー
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