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核協議合意で接近する米・イラン関係 - 酒井啓子 中東徒然日記

ニューズウィーク日本版 / 2015年7月16日 11時15分

 最大の対米同盟国という地位を失うだけではない。サルマン国王になってからのサウディアラビア王政は、欧米のサウディ研究者が「パラノイア状態」と呼ぶほどに、宗派抗争への思い込みを強めている。そしてその背景にイランがいると、妄想とも言えるほどにシーア派を危険視している。協議合意を受けてサウディアラビアのあるコラムニストは、「このような形でイランと合意が成立したら、イランはますますシーア派の武装勢力に肩入れするばかりではないか」、と怒りをあらわにした。

 このように、なによりもイランを最大の敵とみなし、米国の対イラン接近に危機感を感じているサウディアラビアとイスラエルが、こっそり裏でつながろうとしたところで、驚くことではなかろう。サウディアラビアは、イスラエル国家を決して認めていない。しかし今月初め、サウディアラビアの大富豪で故アブドッラー国王の甥にあたるワリード王子が、サウディの日刊紙「ウカーズ」に対して、イスラエル訪問の用意があるとの発言を行った。イスラエルが占領しているエルサレムに巡礼に行く、という趣旨だが、サウディの要人がイスラエル行きを公言したことは、各方面に衝撃を与えている。この発言を受けてイランでは、「やはりサウディはシオニストとつながっていた!」と、非難轟々のツイッターやブログが飛び交った。

 そもそも、「サイクス・ピコ体制打破」と息巻いて、第一次大戦後の西欧植民地支配で押し付けられた中東の国境を否定するISが、その「押し付けられた国境」の最大の例であるイスラエルを真っ先に攻撃対象にしないのはおかしい、という声は、アラブ人から頻繁に聞かれる意見だ。それは、ISがイスラエルとつるんでいるからに違いない、という結論に至る。そして、ISを間接的に支援し肥大化させてきたのは、アラブの王政・首長制諸国の金持たちだ。サウディアラビアとイスラエルはつながっていてISを手先にしている、というアラブ人の間でささやかれる俗説は、ワリード王子の発言を聞けば、ますます信憑性を持って受け止められていく。湾岸の航空会社の飛行機は、かつてはイスラエル上空を大きく迂回して北上していたものだが、最近は真上とはいかずとも、ぎりぎりの海岸線を通っているようだ。少なくとも、ルートマップ上で迂回しているようなふりをするだけの衒いは、ない。

 それにしても、イランと米の間で合意が成立した翌日に、日本では安保法制が採決されるとは、なかなか示唆に富んだタイミングだ。「ホルムズ海峡に機雷がまかれたら」という想定が繰り返し主張されるが、まさに事態は真逆になりつつある。米国とようやくパイプが開けたイランが、ホルムズに機雷を撒くはずもない。いや、もしホルムズに火の手が上がるなら、米国に見捨てられた元同盟国サウディと、新たなパートナー、イランとの間の冷戦状態が熱戦になるときかもしれない。あるいは、5、6月に起きたモスク爆破事件のように、ISがサウディとクウェートでの活動を本格化したときだ。

 さて、そんな誰もほぐすことのできない複雑に絡んだ紛争のど真ん中に、わが自衛隊は機雷を拾いに行って、無事に済むと本気で考えているのだろうか?




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