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サンゴが地球温暖化に順応し始めた

ニューズウィーク日本版 / 2015年7月22日 18時30分

 サンゴが崖っぷちに追いやられている。海水は温度が上昇し、酸性化が進んだ。ほかにも人間の活動のさまざまな要因がストレスとなり、サンゴ礁は今世紀中に絶滅する可能性もある。

 健康なサンゴ礁に依存している海中生物は、約4000種の魚類を含めて全体の25%に及ぶ。そのため、サンゴが絶滅すれば海の多くの生物が道連れになる。

 だが、希望の光はある。先月サイエンス誌に発表された論文によれば、海水温の上昇に適応できるサンゴは、その耐性が次世代に受け継がれるというのだ。しかも、その確率はかなり高い。水温上昇によるストレスを受けているサンゴの中でも生存率には違いがあるが、その差の87%は親の世代が水温上昇に強かったかどうかで決まるという。

「高温への耐性はただ進化しているだけでなく、大変な速さで進化している可能性がある」と、論文を書いた研究チームの1人であるテキサス大学オースティン校のミカイル・マッツ准教授(統合生物学)は言う。見方を変えればサンゴの中には、海水温度の上昇に対して遺伝的に適応できているものがあるということだ。サンゴ礁の保護に取り組む人たちには、いいニュースだろう。

 高温に強い「親サンゴ」が高温に強い「子サンゴ」を生むのなら、高温に弱いサンゴに高温に強いサンゴを掛け合わせれば、遺伝の面から次世代を救えることになる。既に存在する高温に耐性のあるサンゴから、高温に強いサンゴをさらに増やせるかもしれないと研究チームは論じている。

種類の違うサンゴを掛け合わせて強くできる可能性も

 研究チームの1人でオーストラリア海洋科学研究所の進化生態学者ライン・ベイは「生息地の緯度が離れたサンゴを掛け合わせるといった簡単な操作」によって、さらに高温耐性の強いサンゴを作れるかもしれないと言う。高温に強くて生殖能力の高いサンゴを、脆弱なサンゴ礁に移動すれば、遺伝面での種の保護は一気に進む可能性がある。

 ただ、それだけでは問題は解決しない。サンゴは長寿で、数十年から数百年生きる。一方で、気候変動によってこの先数十年にわたり海水の温度上昇と酸性化は進み、酸素も欠乏して場所によっては「酸欠海域」も生じると予測される。

 長寿の生物では「気候変動に対する遺伝的な適応より、一世代の間の順応のほうが重要だと言える」と論文は書いている。絶滅を防ぐには、いま生きているサンゴのために手を打つ必要があるということだ。

 サンゴの遺伝的な進化は、あらゆる問題の解決にはつながらなくても、時間稼ぎの役割は果たしてくれるかもしれない。しかし温暖化のペースに拍車が掛かれば時間稼ぎもできなくなると、マッツは言う。

 サンゴの自助努力に頼るのではなく、やはり温暖化を抑えなくてはならないということだ。

[2015.7.21号掲載]
ゾーイ・シュランガー

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