豊かな日本で「自由」を実感できないのはなぜか
ニューズウィーク日本版 / 2015年7月28日 18時40分
現代社会では「自由」が保障されている。封建時代のように出自によって人生が決まることはないし、好きなところに住み、望む職業に就き、配偶者を自由に選ぶことができる。日本では、幸福の追求や思想・良心の自由など、内面に関する自由も憲法で定められている。
しかし、それが実感できるかどうかとなると話は別だ。日本の社会で「自由」を感じている国民は、果たしてどれ程いるだろう。法律の規定(理念)と国民の意識(現実)には温度差があり、それぞれの社会で国民の意識は様々だ。
世界各国の社会学者で作る国際プロジェクト「世界価値観調査」が、2010~14年に実施した「第6回調査」では、各国の国民に対して「自分の人生をどれほど自由に動かせると思うか」と尋ねている。10段階で自己評定してもらう形式だ。下の<図1>は、日本とアメリカの評定分布を折れ線グラフにしたものだ。
日本は10段階の5点周辺にピークがあるが、アメリカは高評価に多く分布している。8点以上の割合は日本では20%だが,アメリカでは62%にもなる。国別の平均点を計算してみると日本が5.76点、アメリカが7.73点となる。アメリカのほうが、自分の人生を自由に動かせると考えている人が多いようだ。「自由の国」の看板に偽りなし、と言えそうだ。
上記調査の対象は60カ国だが、すべての国について同じように平均点を出し、高い順に並べたランキングにすると下の<表1>のようになる。
メキシコが8.44点で最も高い。2位はトリニダード・トバゴ、3位はコロンビアと、中南米の社会が続く。前述のアメリカは11位、スウェーデンは15位、ドイツは42位、韓国は47位、そして日本は下から2番目という位置だ。日本の国民が肌で感じる人生の自由度は、カースト社会のインドに次いで低い。この結果には、いささか驚かされる。
中南米の国々は貧富の格差が大きく、階層間の移動も容易ではないはずだ。「生まれ」によって所属階層が決まる度合いは日本より高いと思われるが、それにも増して人生の多様な選択肢があり、人生の随所でやりたいことができるのかもしれない。
対して日本は、高校卒業後に約半数が大学に進学する。新卒で就職後は、毎日オフィス勤めの生活が待ち構えている。雇用の流動性が低いため、職場を移ることには実際、様々な困難がある。起業には多大なリスクを伴う。壮年期や中年期になってから人生の転換を図るのは、それ程簡単なことではない。
人生の自由度評点の平均を年齢別に出すと、右上がり、つまり加齢とともに自由度が増す社会が多いのだが、日本はその反対になっている。年齢が上がるほど、選択肢がなくなっていく。履歴書に年齢を記入させるなど、年齢が上がることによって雇用の機会が失われていくことにもよるだろう。
日本の暮らしは快適で便利だが、それは人々を高度に管理・統制することで成り立っている。貧しいが自由な社会と、豊かだが抑圧の強い社会。大きく分ければ社会には2つのタイプがあり、現存する国々はこの両極の間に位置している。この統計から分かるのは、日本は後者の極点に近いということだ。こうした偏りを是正し、成熟社会にふさわしい姿に近づけていくのが理想だろう。
(出典資料:世界価値観調査)
<筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」>
舞田敏彦
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