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いま必要なのは途上国型の「戦時レジーム」の清算だ - 池田信夫 エコノMIX異論正論

ニューズウィーク日本版 / 2015年7月30日 17時17分

 もっと根本的な問題は、経済システム全体の効率化だ。日本人は勤勉で優秀だといわれているが、日本の労働生産性(付加価値/労働時間)はOECD(経済協力開発機構)の平均より低く、アメリカの7割程度だ。この最大の原因は、雇用慣行が硬直的で、資本効率が悪いからだ。

 この根本には、戦時中に始まった日本型の国家資本主義がある。社会保障の目的は全国民を戦争に動員するために健康を守り、老後の面倒をみることだった。そして戦後、高度成長の恩恵を労働者にも分配するために年金や健康保険を全国民に拡大し、給付額も上がる一方だった。

 この資金配分の中心は、政府とその監督下にある銀行だった。預金金利は低く規制され、低コストで調達した資金を基幹産業に投資してきた。これは資金不足の発展途上国が成長率を高めるには適した方式だが、今のように資金が過剰になると役に立たない。他の制度も成長が続くことを前提にしているので、成長が止まると破綻する。

 つまり今の日本の行き詰まりの原因は、安倍首相のいう「戦後レジーム」ではなく、戦時中にできた国民を戦争に動員する戦時レジームにあるのだ。これを設計したのも(首相の祖父)岸信介だが、彼は最終的には財政が制約になることを自覚し、国家が国民の面倒をみる温情主義は過渡的なシステムだと考えていた。

 しかし憲法改正を最終目標と考える安倍首相は、日本の行き詰まりの根本にあるのが戦時レジームであることを知らない。彼はいまだに成長がすべてを解決するという祖父の時代の経済政策を続けようとしているが、マイナス成長の時代に、政府がすべての国民の既得権を守ることはできないのだ。

 憲法を改正しても、この経済システムのひずみは何も変わらない。非効率な企業が整理されず、資本効率が悪いため、余った資金は国債に投入され、それが財政破綻を先送りしているが、これも遠からず限界が来る。必要なのは戦時レジームを清算し、資本を効率的に使う普通の資本主義に戻ることしかないだろう。

<編集部より>池田信夫氏の「エコノMIX異論正論」は今回で終了します。6年間ご愛読ありがとうございました。

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