ドローンは「自動車のない世界に現れた電気自動車」なのか
ニューズウィーク日本版 / 2015年7月31日 18時30分
その一方で著者は、ドローンをめぐる現在の状況を「自動車のない世界に突然電気自動車が現れたようなもの」(214ページより)と表現してもいる。
電気自動車は構造が比較的単純で、部品化が進んでおり、ある程度の技術力があれば誰でも作れてしまう(中略)。誰にでも作れてしまうのに、下手すると人を殺すぐらいの力がある。ところがこの世界には、信号機もなければ自動車専用レーンもなく、運転技術や安全のためのルールを教えてくれる教習所も存在しない(そもそも交通規則というものが存在しない)。(215ページより)
つまりは、どこか矛盾を内包したこの状態こそが、ドローンを取り巻くリアルだということだ。とはいえ、問題が残されているということは、そこに希望があるということでもないだろうか。著者もその点を認めていて、人間にない能力を備えているからこそ、ドローンは「これまでになかった仕事の進め方を可能にしてくれるかもしれない」(248ページより)と語っている。
事実、漁業の世界では、船の上からドローンを放ち、カメラで魚影を探して漁を行うポイントを探すといった使い方が考案されているのだという。そればかりか、ソナーを搭載し、水中の魚影をキャッチしてスマートフォンのアプリにデータを送ってくれるウォータープルーフのドローンまで登場しているらしい。もちろんこうした未知の可能性は、他のあらゆる分野においても同時多発的に生まれているだろう。
ちなみに上記で「これまでになかった仕事の進め方を可能にしてくれるかもしれない」とかぎかっこをつけたことには理由がある。というのも本書には、「~かもしれない」という表現がよく見られるのだ。そしてそれが、まだ見ぬ「ドローンと暮らす未来」を思い起こさせてくれるのである。
「あれができるかもしれない」
「これができるかもしれない」
「しかも、可能性は思っていたよりも大きいようだ」
肯定的に、そう感じさせてくれるということだ。だから読み終えたころには、私の頭のなかにも以前には見えなかったドローンの将来的なイメージが浮かぶようになった。
『ドローン・ビジネスの衝撃
――小型無人飛行機が切り開く新たなマーケット』
小林啓倫 著
朝日新聞出版
印南敦史(書評家、ライター)
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