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バルト海に迫る新たな冷戦

ニューズウィーク日本版 / 2015年8月4日 18時0分

 NATO(北大西洋条約機構)は先月、2週間にわたりバルト海で合同軍事演習を行った。その3日目の午前10時、デンマーク海軍のラッセ・ジェンセン上級曹長は予期していたロシアのスパイ機の侵入を探知した。

 デンマーク東部の島ボルンホルムにあるレーダー基地に所属しているジェンセンはすぐに、コンピュータースクリーン3台を見詰めながらスパイ機の動きを追った。「狭い海域に多くの戦艦が集まれば、ロシア軍が何らかの偵察に来ることが予想される。それがもう普通だ」と、彼は語った。

 バルト海での軍事演習は毎年恒例だが、今年は特にNATO軍の強さを大々的に誇示する演習が展開された。バルト海に接するロシアの飛び地カリーニングラードからわずか100キロの地点に、17カ国から軍艦49隻と兵士5900人が集結して演習を行った。

 ロシアも負けじとばかりに「応戦」した。演習に参加していた米艦隊から約1.6キロの地点までロシア船が接近。演習の最中に上空を飛んできたロシア軍機を、NATOのジェット機が慌てて避ける場面も何度かあった。

 だがロシアによるこうした牽制行為も、ジェンセンが1年前に目にしたものに比べればかわいいものだ。彼は昨年6月、ロシアの爆撃機2機と戦闘機4機が戦闘隊形でレーダー基地に迫ってくるのを見た。

「おそらくこの基地を攻撃するシミュレーションだったのだろう」と、ジェンセンは言う。「あの飛行ルートで標的になり得たのは私たちだけだ」

 その後、デンマーク軍がこの事件について公表すると、大きな騒ぎになった。ロシア軍機が迫ってきたタイミングが、ちょうどボルンホルムで毎年行われている「政治フェスティバル」の開催中だったためだ。ボルンホルム島には当時、ヘレ・トーニングシュミット首相をはじめとする政治家、ジャーナリスト、市民ら約9万人が集まっていた。

真っ先に標的にされる島

 ロシア軍機の接近が意図的な脅しだったのか、単なる偶然だったのかは分からない。ただ、これに似た危ない飛行(明らかな領空侵犯もある)や軍艦の航行が増えているのは確かであり、デンマークやスウェーデンなど北欧諸国のロシアに対する警戒感は冷戦以降で最高レベルに達している。

 欧州政策分析センター(CEPA)が先月公表したバルト海の安全保障に関する報告書「迫り来る嵐」によれば、ロシアは3月、兵士3万3000人を動員して大胆な軍事演習を行ったという。

「彼らのシナリオは、ノルウェー北部、(フィンランド領)オーランド諸島、スウェーデンのゴトランド島、デンマークのボルンホルム島を迅速に掌握することだった」と、報告書は指摘している。その作戦が「成功して、これらの領土がロシアの支配下に入ったら、NATOがバルト海沿岸諸国の軍備増強を図るのはほぼ不可能になる」。

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