「トランプ旋風」にダマされるな! - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年8月11日 11時40分
2つ目は今回のテレビ討論の冒頭シーンです。開始早々に司会者が、「共和党の指名獲得から外れた場合に無所属出馬の可能性を排除しない人はいますか?」という質問を一斉に投げかけたのですが、これに対してトランプ氏は1人だけ挙手をしました。
これは大変深刻な意味があります。というのは、仮に有力候補が指名争いに漏れた場合に無所属出馬をしてしまうと、分裂選挙になるからです。例えば、1992年のブッシュ(父)や、2000年のゴアといった候補たちは、ある種の分裂選挙の結果、無所属候補に票を食われて落選しています。この質問に対してイエスの挙手をするというのは、反党的な候補と言われても仕方がありません。
3つ目は、テレビ討論の後で飛び出したものです。討論の司会は、FOXニュースの人気キャスターであるメジン・ケリーだったのですが、トランプ氏は彼女の司会ぶりが気に入らなかったようで、「目が血走っていて、それからどこかから血が出ている感じだった」という言い方で非難したのでした。
この発言は各方面の怒りを買いました。というのは、発言を普通に聞くと「女性の生理に関して揶揄している」ように聞こえるからです。本人は「そんな意図はない」として否定していますが、同じ共和党の大統領候補であるカーリー・フィオリーナ氏は、「女性として許せない」と激怒していますし、「大統領候補としての品格に欠ける」という非難が殺到しています。
では、そんなトランプ氏が世論調査でダントツの首位ということは、アメリカの民主主義は「劣化」しているのでしょうか?
そうではないのです。この支持率24.3%とか、視聴数2400万というのは、「シリアスなものではない」のです。アメリカの有権者は、十分に健全であって、このドナルド・トランプという人を合衆国大統領にする気などまったくないと思います。
では、この「現象」は何を意味するのでしょうか?
簡単なことです。アメリカの有権者は、フロント・ランナーと言われるヒラリー・クリントンにも満足していないし、彼女に対抗している共和党の本命候補、例えばジェブ・ブッシュなどにも満足していないのです。彼らに奮起を促すために、またそのために予備選を盛り上げて行くために、まったく仮の動きとして「トランプ旋風」を煽って、楽しんでいるだけなのです。
やがて、トランプ氏の勢いは止まるでしょう。その時には、ヒラリーとジェブという本命中の本命が一騎打ちを始めるでしょう。ただしトランプ旋風が長引く、つまりヒラリーやジェブへの不満感が深刻なものとなった場合には、例えばルビオとかクルーズといった共和党の若い世代の思いがけない躍進ということがあるかもしれません。いずれにしても、「トランプ旋風」にダマされてはいけません。
<文頭写真:テレビ討論会でも暴言を吐きまくったトランプ Brian Snyder-REUTERS>
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