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レノンとジョブズ、そしてiPodと吉原治良

ニューズウィーク日本版 / 2015年8月24日 17時30分



 もしかしたらふたりは当時、お互いの存在に気づかないまま、至近距離まで近づいていたのかもしれない。両者のことばが並んだこのページは、そんなことさえ連想させる。だが、それは他の箇所についても同じだ。特に第1部では両者の共通点が精密に指摘されており、読んでいると軽い興奮状態に陥りもする。

 個人的に特に興味を引かれたのは、「円」についての考え方だ。たとえばジョブズがシンプルかつ手軽であることに執着したことはよく知られているが、ここではわかりやすく、そして深い解明がなされている。


 iPodの、話題をよんだあの形、白い長四角にリングのある形。これは円相だ。禅僧が白い紙の上に筆で書く(描く)、丸い形。
 円相は禅の境地である。宇宙でもあり、空(くう)でもある。水に映る月かもしれない。(41ページより)



 一方で著者は、1950年代から60年代に活性化した日本の前衛美術運動にも言及しており、キャンバスにリングを太く大きく描いた吉原治良の作品をも話題にしている。これは文学、演劇、映画、音楽などの各分野で「前衛」がもてはやされた時代のことで、その推進者のひとりがオノ・ヨーコである。つまり、ここでまたレノンとジョブズは「つかず離れず」の接点を見せる。

 もちろん、それはこじつけだと終わらせることもできるかもしれない。けれどもあながち的外れではない気がして、これらの推測はなかなか楽しい。


 レノンの丸メガネは、円相と関連するのではないか。そしてジョブズもまた、晩年は丸メガネ姿だった。ここでも符牒があったわけだ(45ページより)



 さて、この記述をどう受け止めるか。

 なおレノンとジョブズのみならず、本書ではビートルズについてかなりのページ数が割かれており、そこにはビートルズ世代である著者の熱い思いが反映されている。その考察の深さは、ビートルマニアをも納得させることだろう。

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『レノンとジョブズ――変革を呼ぶフール』
 井口尚樹 著
 彩流社

印南敦史(書評家、ライター)


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