中間層もインフラも壊滅、ガザは5年後に「居住不能」
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月4日 17時0分
パレスチナ自治区のガザ地区は、もし現在の経済状態が続けば5年以内に「居住不能」になる可能性がある、と警告する報告書を国連が公表した。
国連機関の貿易開発会議(UNCTAD)の報告書によると、ガザの社会経済の現状は1967年以来最低の水準にある。「今の傾向が続けば、人口過密が社会、医療、治安の破綻を招き、2020年までにガザでは生活できなくなるかもしれない」。
95年以前まで「退行」した経済
ガザの人口は、2020年までに現在の160万人から210万人に増加すると予測されており、医療、教育、上水道、衛生の各部門で「相当な努力」をしなければ、ガザに人が住み続けることはできなくなる、と報告書は指摘している。
ガザの壊滅的な経済の現状にも触れている。8年に渡るイスラエルの経済封鎖と過去6年間に繰り返された3回の戦闘によって、「ガザから域外に輸出する商品の生産能力は破壊され、インフラも破壊された」。
戦闘が繰り返されるため経済復興を成し遂げる十分な時間もなく、比較的に安定した時期だった95~99年に成し遂げた経済発展は失われ、以前より後退してしまった。
「パレスチナの人々の経済状態は、20年前より悪化している」と、報告書は指摘している。昨年の失業率は過去最高の44%に達し、女性10人のうち8人は無職だ。
ガザでは昨年のイスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスの戦闘によって住民数千人が住居を失ったまま。また06~14年の戦闘でパレスチナはGDP(域内総生産)の3倍の損失を被った。
ガザの住民1人あたりのGDPは、同じパレスチナのヨルダン川西岸地区の3分の2程度だが、「間接的な経済損失を勘案し、生産能力の破壊で将来失う収入も換算すれば、紛争による損失の合計はさらに高くなる」という。
中間層は壊滅しほとんどが極貧状態へ
昨年の戦闘では2200人の住民が死亡したが、その大部分は民間人だった。この戦闘で「かろうじて残っていた中間層は壊滅し、住民のほとんどすべてが極貧状態に転落。国際的な人道援助に依存しなければならなくなった」。
この戦闘で住宅1万8000戸、26の学校、15の病院が破壊され、農業部門や工場、主要インフラ、観光施設が損害を受けた。過去6年間の軍事行動で殺された住民は3782人に上る。
今年国連は、昨年のガザ侵攻に関して、イスラエル軍とハマスの双方の戦争犯罪を糾弾した。イスラエルは国連の主張に異議を唱え、ガザ侵攻は合法だったとする独自の報告書を公表した。一方イギリスでは、来月訪英するイスラエルのネタニヤフ首相の逮捕を求める請願に、9万5780人の署名が集まっている。
ガザでは電気、食糧、水道の供給も課題となっている。昨年の戦闘以前も、ガザでは電力需要の40%は供給されていなかった。ガザの住民は飲み水を海岸沿いの地下水に頼っているが、こうした水の95%は飲み水に適していない。そして86万8000人のガザの住民のうち約半数が現在、国連機関の食糧配給に頼っている。2000年時点の7万2000人から大幅に増加した。
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