日本のインターネットの「屈折」を読み解くキーワード
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月4日 17時26分
『アーキテクチャの生態系――情報環境はいかに設計されてきたか』(濱野智史著、ちくま文庫)は、2008年にエヌティティ出版から刊行された書籍を文庫化したもの。よくある情報社会論的なアプローチとは一線を画しているため、インターネットが普及したここ10数年のプロセスを振り返るにあたっては大きな役割を果たすだろう。
本書の主題は、主に二〇〇〇年以降、インターネットという情報環境上に登場した、グーグル、ブログ、2ちゃんねる、ミクシィ、ウィニー、ニコニコ動画といったさまざまなウェブサービスを分断するというものです。(8ページより)
もとになっているのは、著者が大学在籍中に行ったブログの普及過程に関する修士論文だという。ブログの研究をしていたのは学部3年生だった2002年から大学院を終了した2005年にかけてだというので、すでに10数年の時間が経過していることになる。
事実、いまとなっては「過去のもの」というイメージが強いウェブサービスもいくつかあるし、執筆当時の著者の予想も、いくつかは外れている。しかしそれはたいした問題ではなく、サービスが誕生した時期にリアルタイムに行われた予想がそのままのかたちで記録されているということにこそ、当時の感触をリアルに伝える媒体としての存在価値があるはずだ。
最大の特徴は、インターネット上に存在するサービスやツールのことを「メディア」としてではなく、「アーキテクチャ」(建築、構造)として捉えている点。情報技術(IT)によって設計されたネット上のウェブサービスもまた、人間の行動を制御する「アーキテクチャ」とみなすことができるから、というのがその理由だ。
そこに物理的な実体はないけれども、複数の人々がなんらかの行動や相互行為をとれる「場」と捉えることができるという考え方である。現実的にいまは「場」を「社会」と置き換えられる状況になっているわけだから、この解釈は意義を感じさせる。
さて、そのようなコンセプトに基づき、本書では時系列的に話が進められていく。ウェブの歴史からスタートし、その後、第二章で取り上げられるのは、2000年代前半に普及した「グーグル」や「ブログ」などのソーシャルウェアだ。このパートでは特に、ブログに対する肯定論と否定論を並列させていく構成が非常に公正で、また(専門的な知識を持たない私のような人間には難解な部分もあったとはいえ)説得力を持っていると感じた。
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